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※5巻のネタバレ情報がふくまれます。
5巻をチェックしてから読むのがおすすめだよ!まだ読んでいない人は注意してね。
私、千代原ほずみ。
ひょんな事から「都道府県男子」四十七人をリアル化しちゃった、ごくフツーの中学二年生です。
つい先日、東京君・京都君・大阪君のニセモノがアイドル活動を始め、九州寮が運営するアイドルグループ「9CHU」と対立しちゃったんだ……っ。
東京君は、ニセモノたちの陰謀を暴くため、9CHUに加入!
私も何かできることをしようと、マネージャーとしてお手伝いする日々だ。
メンバーはタイマン・コンサートの絶対勝利をめざして、めちゃくちゃがんばってる。
そして、いよいよ本番は明日!
私は九州寮の倉庫で、当日の衣装や荷物の三度目のチェックを終えたところだ。
フーッと息をついて時計を見上げると、あらら、もう夕ごはんの時間。
みんな「吉野ヶ里遺跡」の修行場で練習してるから、今、こっちの事務所にいるのは、私と福岡君だけ。
彼も電話やらメールやら、お客さんとのミーティングやらで、ず~っといそがしいみたい。
倉庫のドアをそーっと開け、今、話しかけて大丈夫かなぁと、社長デスクのようすをうかがう。
「あの~。そろそろみんなの夕飯、出前かなにか注文しちゃっていいですか?」
「お。もうそんな時間か」
彼はデスクの書類から顔を上げる。
「ずっとお弁当か出前なので、なにかカンタンなのでよければ、私が作りますが……」
事務所にちっちゃなキッチンはあるんだ。
九州男子七人と、東京君と私のぶんで九人ぶん。関東寮の夕飯当番のときと、そんなに量は変わらないもんね。
「実は、今日の夕飯はもう仕込んであるんだ」
「福岡君の手作りなんですかっ?」
「うむ。みんなの疲れがピークのころだ。あしたの出陣まえに、元気が出るものをと思ってな」
社長の手料理なら、きっと福岡名物だよね。どんなのなんだろう……!
目を輝かせる私に、福岡君はスーツの上着をぬぎ、シャツのそでをまくり上げた。
「みんなが帰ってくる前に、千代原も手伝ってくれるか」
「はいっ!」
*
福岡君も私も、明太子色のド派手なエプロンをつけ、準備万全。
遺跡修行場からワープでもどってきたみんなは、事務所の変わりように目をむいた。
「ノッサ(わぁ)!これどうしたの~⁉楽しーい♪」
「こら長崎っ。走りまわるとケガをするぞ」
長崎君は大はしゃぎでパタパタ、そして佐賀君はそんな彼を追いかける。
「とんこつスープの香り!腹へったばい!」
「わぁ~ん、おいしそうやなぁ~」
ステージメンバーの熊本君と大分君は、もう、力つきて倒れそうな調子で、おなべに取りすがる。
「これはすごいな」
ボソッとつぶやいた鹿児島君は、片手にスヤスヤおやすみ中の宮崎君を引きずってきてる。
東京君も私のとなりで、ぽかーんとして事務所を見回した。
「いつの間に準備してくれたんだ?ほずみが?」
「いえいえっ。私はならべるのを手伝っただけです。福岡君が、きのうの夜中から仕込んでくれてたそうで」
みんながおどろいちゃうのもトーゼンだ。
今や事務所が、すっかり「ラーメン屋台」に様変わり!
ミニキッチンのコンロを占領するのは、大き~なラーメンスープのなべ。
となりのナベでは、ぐらぐらお湯がわいていて、麺をゆでる準備もオッケー。
社長デスクの上には、ネギ、ガーリックチップ、ラー油などなど、ずらぁり各種のトッピング!
「九州のラーメンは、福岡(おれ)の久留米が発祥の地だ。トクイ料理と言われたら、もちろんラーメン。サッと食って仕事にもどれるし、みんな好きだろ?よし、そこに並べ。太麺・細めん、バリカタ・やわゆで、好みに合わせてゆでてやる」
「ヤーッ!」
みんな一斉に答え、わくわくで列を作る。
スープの濃さもお好みで。ゆでてもらった麺を入れて、思い思いのトッピングを盛り、マイ九州ラーメンの完成!
みんなで応接セットのソファに座り、ラーメンタイムだっ。
「ほずみはどんなのにした?」
「福岡君のオススメで、バリカタの細麺に、チャーシューとネギたっぷりです。東京君は?」
「赤しょうが多めで、ゆで卵ものっけてみた。ちょっと待て。佐賀、生卵を入れるのか?」
となりに座る佐賀君が、テーブルの角でこんこん卵をたたいてる。
「まろやかになってウマい。ためしてみるといい」
佐賀君はぷるぷるの黄身をハシで割り、とろりとスープに溶かす。
「ほんとにおいしそうですっ。私も後でやってみます」
テーブルの向かいでは、熊本君がにんにくチップスの上に、黒マー油をまわしがけ!
「ここはガツンと、にんにくで元気つけるばい!」
「あしたステージやに、におい大丈夫なん?」
「大分も連帯責任ばい!」
熊本君はスプーンに大盛りのにんにくチップスを、大分君のどんぶりに大量投下!
「うわーっ!……って、でもこれ、おいしいんやなぁ。あとでにおい消しに、大分特産のガンジー牛乳飲んどこ」
仲良しな大熊(ビッグベア)コンビの奥では、鹿児島君が特産の黒豚のチャーシューを、桜島の山みたいに積みあげ、宮崎君はスープに醤油だれをたらーり、すでに味変を楽しんでる。
私も、あとであれやってみよう、こっちも食べてみようって、みんなのどんぶりを見ながら、なんだかすっごく楽しい。
疲れきってたみんなの表情が生き生きしてる。
ラーメンパワー、すごい!というより、福岡君の〝長男〟パワーかも?
福岡君はみんなの様子をながめて、うれしそうにフフッと笑ってる。
そして自分のぶんも作るのかなと思いきや、彼は社長イスに腰かけ、そのまままぶたをおろしちゃった。
「あれ……」
「どうした?」
東京君に首をかしげられて、私は目線で、眠りに入っちゃった福岡君のほうを示す。
「福岡君も、おつかれですよね。夜中もスープ作ってくれてたそうですし……」
鹿児島君がチャーシューをほおばりながら、ちらり彼を見る。
「社長は、いつもそうなんだ。わいらの世話を焼くと、それで満足する」
さっき福岡君と二人の時に聞いたんだけど、とんこつスープを作るのって、十時間以上も煮こまなきゃいけないし、アクを取ったり水をたしたり、とにかく手間ヒマがかかるんだって。
そんな、とんこつスープ発祥の地のご当地要素から、福岡君は世話焼き気質に?
「――いいアイデアが降りてきたっちゃが!」
「うわっ⁉」
宮崎君が急に立ち上がった。
びっくりして見上げると、彼の糸みたいに細い目が、パカッと開いたような?(しかもTシャツのモアイ柄まで、目が開いたような?)
目をこすって二度見したら、もうどっちも閉じてる。き、気のせいだったのかな。
「どうしたんですか?」
「みんな、耳貸してくれん?」
彼は手まねきして、みんなにひそひそ声を吹き込んだ。
*
福岡君は、イスにもたれたままお休み中。
そ~っとにじりよった長崎君が、彼の高い鼻をきゅっとツマむ。
「貴様(キサン)なんしよっとや!」
彼は寝ぼけて敵かと思ったのか、デスクわきに置いてた刀をわしづかむ!
「メウ・デウス(なんてこと)、うちだよ~っ!」
「……長崎。おどろかすな」
彼はぺぺっと長崎君の手をはらう。
そしてすぐに、私たちがワクワクと囲んでるのに気づき、大きくまばたき。
次に、デスクに置かれた「特盛りラーメン」に、ぎょっとする。
事務所にあった一番大きなどんぶりに、あっつあつのスープ。バリカタの細麺。そして、全部のトッピングを盛り盛りのせた、まるで九州最大都市の福岡市そのものみたいな、にぎやかなラーメン!
「社長が好きなバリカタでゆでた。伸びないうちに、早く食べな」
鹿児島君が一言。
「お、おお……」
福岡君は、目の前の巨大ラーメンに、何度もまばたき。
そしてついに、顔をしわくちゃにして、フハッと笑った。
「考えたのは、宮崎だな?」
「なんでバレちょると」
宮崎君は、いたずら成功ってかんじに舌を出す。
「いっぱい食べてな、社長」
「そーばい、おいらの熱い愛が特盛りたい!」
「自分を後まわしなのは、よろしくないぞ。社長」
大分君、熊本君、佐賀君にまで言われて、福岡君は両手を降参するようにバンザイした。
「わかったわかった。見てなくていいから、おまえたちはスタジオにもどって働け」
みんな追いはらわれ、ブーブーと口をとがらせて、食器を片づけはじめる。
みんなの様子をながめてた私と東京君は、顔を見合わせてフフッと笑った。
「九州寮って、ほんとに仲良し家族ですね」
「な。安心する」
みんなが動きだしてから、福岡君はやっとハシをとった。
そして――、私はチラッと見ちゃったのです。
「いただきます」と小さな声でつぶやいた彼が、とっても幸せそうに笑ったところを。
おしまい