『都道府県男子!』書き下ろし限定SS②

※5巻のネタバレ情報がふくまれます。

 5巻をチェックしてから読むのがおすすめだよ!まだ読んでいない人は注意してね。

 私、千代原ほずみ。

 ひょんな事から「都道府県男子」四十七人をリアル化しちゃった、ごくフツーの中学二年生です。

 つい先日、東京君・京都君・大阪君のニセモノがアイドル活動を始め、九州寮が運営するアイドルグループ「9CHU」と対立しちゃったんだ……っ。

 東京君は、ニセモノたちの陰謀を暴くため、9CHUに加入!

 私も何かできることをしようと、マネージャーとしてお手伝いする日々だ。

 メンバーはタイマン・コンサートの絶対勝利をめざして、めちゃくちゃがんばってる。

 そして、いよいよ本番は明日!

 私は九州寮の倉庫で、当日の衣装や荷物の三度目のチェックを終えたところだ。

 フーッと息をついて時計を見上げると、あらら、もう夕ごはんの時間。

 みんな「吉野ヶ里遺跡」の修行場で練習してるから、今、こっちの事務所にいるのは、私と福岡君だけ。

 彼も電話やらメールやら、お客さんとのミーティングやらで、ず~っといそがしいみたい。

 倉庫のドアをそーっと開け、今、話しかけて大丈夫かなぁと、社長デスクのようすをうかがう。

「あの~。そろそろみんなの夕飯、出前かなにか注文しちゃっていいですか?」

「お。もうそんな時間か」

 彼はデスクの書類から顔を上げる。

「ずっとお弁当か出前なので、なにかカンタンなのでよければ、私が作りますが……」

 事務所にちっちゃなキッチンはあるんだ。

 九州男子七人と、東京君と私のぶんで九人ぶん。関東寮の夕飯当番のときと、そんなに量は変わらないもんね。

「実は、今日の夕飯はもう仕込んであるんだ」

「福岡君の手作りなんですかっ?」

「うむ。みんなの疲れがピークのころだ。あしたの出陣まえに、元気が出るものをと思ってな」

 社長の手料理なら、きっと福岡名物だよね。どんなのなんだろう……!

 目を輝かせる私に、福岡君はスーツの上着をぬぎ、シャツのそでをまくり上げた。

「みんなが帰ってくる前に、千代原も手伝ってくれるか」

「はいっ!」



 福岡君も私も、明太子色のド派手なエプロンをつけ、準備万全。

 遺跡修行場からワープでもどってきたみんなは、事務所の変わりように目をむいた。

「ノッサ(わぁ)!これどうしたの~⁉楽しーい♪」

「こら長崎っ。走りまわるとケガをするぞ」

 長崎君は大はしゃぎでパタパタ、そして佐賀君はそんな彼を追いかける。

「とんこつスープの香り!腹へったばい!」

「わぁ~ん、おいしそうやなぁ~」

 ステージメンバーの熊本君と大分君は、もう、力つきて倒れそうな調子で、おなべに取りすがる。

「これはすごいな」

 ボソッとつぶやいた鹿児島君は、片手にスヤスヤおやすみ中の宮崎君を引きずってきてる。

 東京君も私のとなりで、ぽかーんとして事務所を見回した。

「いつの間に準備してくれたんだ?ほずみが?」

「いえいえっ。私はならべるのを手伝っただけです。福岡君が、きのうの夜中から仕込んでくれてたそうで」

 みんながおどろいちゃうのもトーゼンだ。

 今や事務所が、すっかり「ラーメン屋台」に様変わり!

 ミニキッチンのコンロを占領するのは、大き~なラーメンスープのなべ。

 となりのナベでは、ぐらぐらお湯がわいていて、麺をゆでる準備もオッケー。

 社長デスクの上には、ネギ、ガーリックチップ、ラー油などなど、ずらぁり各種のトッピング!

「九州のラーメンは、福岡(おれ)の久留米が発祥の地だ。トクイ料理と言われたら、もちろんラーメン。サッと食って仕事にもどれるし、みんな好きだろ?よし、そこに並べ。太麺・細めん、バリカタ・やわゆで、好みに合わせてゆでてやる」

「ヤーッ!」

 みんな一斉に答え、わくわくで列を作る。

 スープの濃さもお好みで。ゆでてもらった麺を入れて、思い思いのトッピングを盛り、マイ九州ラーメンの完成!

 みんなで応接セットのソファに座り、ラーメンタイムだっ。

「ほずみはどんなのにした?」

「福岡君のオススメで、バリカタの細麺に、チャーシューとネギたっぷりです。東京君は?」

「赤しょうが多めで、ゆで卵ものっけてみた。ちょっと待て。佐賀、生卵を入れるのか?」

 となりに座る佐賀君が、テーブルの角でこんこん卵をたたいてる。

「まろやかになってウマい。ためしてみるといい」

 佐賀君はぷるぷるの黄身をハシで割り、とろりとスープに溶かす。

「ほんとにおいしそうですっ。私も後でやってみます」

 テーブルの向かいでは、熊本君がにんにくチップスの上に、黒マー油をまわしがけ!

「ここはガツンと、にんにくで元気つけるばい!」

「あしたステージやに、におい大丈夫なん?」

「大分も連帯責任ばい!」

 熊本君はスプーンに大盛りのにんにくチップスを、大分君のどんぶりに大量投下!

「うわーっ!……って、でもこれ、おいしいんやなぁ。あとでにおい消しに、大分特産のガンジー牛乳飲んどこ」

 仲良しな大熊(ビッグベア)コンビの奥では、鹿児島君が特産の黒豚のチャーシューを、桜島の山みたいに積みあげ、宮崎君はスープに醤油だれをたらーり、すでに味変を楽しんでる。

 私も、あとであれやってみよう、こっちも食べてみようって、みんなのどんぶりを見ながら、なんだかすっごく楽しい。

 疲れきってたみんなの表情が生き生きしてる。

 ラーメンパワー、すごい!というより、福岡君の〝長男〟パワーかも?

 福岡君はみんなの様子をながめて、うれしそうにフフッと笑ってる。

 そして自分のぶんも作るのかなと思いきや、彼は社長イスに腰かけ、そのまままぶたをおろしちゃった。

「あれ……」

「どうした?」

 東京君に首をかしげられて、私は目線で、眠りに入っちゃった福岡君のほうを示す。

「福岡君も、おつかれですよね。夜中もスープ作ってくれてたそうですし……」

 鹿児島君がチャーシューをほおばりながら、ちらり彼を見る。

「社長は、いつもそうなんだ。わいらの世話を焼くと、それで満足する」

 さっき福岡君と二人の時に聞いたんだけど、とんこつスープを作るのって、十時間以上も煮こまなきゃいけないし、アクを取ったり水をたしたり、とにかく手間ヒマがかかるんだって。

 そんな、とんこつスープ発祥の地のご当地要素から、福岡君は世話焼き気質に?

「――いいアイデアが降りてきたっちゃが!」

「うわっ⁉」

 宮崎君が急に立ち上がった。

 びっくりして見上げると、彼の糸みたいに細い目が、パカッと開いたような?(しかもTシャツのモアイ柄まで、目が開いたような?)

 目をこすって二度見したら、もうどっちも閉じてる。き、気のせいだったのかな。

「どうしたんですか?」

「みんな、耳貸してくれん?」

 彼は手まねきして、みんなにひそひそ声を吹き込んだ。



 福岡君は、イスにもたれたままお休み中。

 そ~っとにじりよった長崎君が、彼の高い鼻をきゅっとツマむ。

「貴様(キサン)なんしよっとや!」

 彼は寝ぼけて敵かと思ったのか、デスクわきに置いてた刀をわしづかむ!

「メウ・デウス(なんてこと)、うちだよ~っ!」

「……長崎。おどろかすな」

 彼はぺぺっと長崎君の手をはらう。

 そしてすぐに、私たちがワクワクと囲んでるのに気づき、大きくまばたき。

 次に、デスクに置かれた「特盛りラーメン」に、ぎょっとする。

 事務所にあった一番大きなどんぶりに、あっつあつのスープ。バリカタの細麺。そして、全部のトッピングを盛り盛りのせた、まるで九州最大都市の福岡市そのものみたいな、にぎやかなラーメン!

「社長が好きなバリカタでゆでた。伸びないうちに、早く食べな」

 鹿児島君が一言。

「お、おお……」

 福岡君は、目の前の巨大ラーメンに、何度もまばたき。

 そしてついに、顔をしわくちゃにして、フハッと笑った。

「考えたのは、宮崎だな?」

「なんでバレちょると」

 宮崎君は、いたずら成功ってかんじに舌を出す。

「いっぱい食べてな、社長」

「そーばい、おいらの熱い愛が特盛りたい!」

「自分を後まわしなのは、よろしくないぞ。社長」

 大分君、熊本君、佐賀君にまで言われて、福岡君は両手を降参するようにバンザイした。

「わかったわかった。見てなくていいから、おまえたちはスタジオにもどって働け」

 みんな追いはらわれ、ブーブーと口をとがらせて、食器を片づけはじめる。

 みんなの様子をながめてた私と東京君は、顔を見合わせてフフッと笑った。

「九州寮って、ほんとに仲良し家族ですね」

「な。安心する」

 みんなが動きだしてから、福岡君はやっとハシをとった。

 そして――、私はチラッと見ちゃったのです。

「いただきます」と小さな声でつぶやいた彼が、とっても幸せそうに笑ったところを。


おしまい

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