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祝勝会があるなんて聞いてないっ!
三ボスを見習いソルジャーに迎え、にぎやかな朝食を楽しんだ。
その日の放課後。
ぼくは、耳慣れない単語を聞かされて首をひねっていた。
「祝勝会、ですか?」
ボスのサインが必要な書類があると、教室までジョーイ先輩が迎えに来た。
そうしてカポ執務室でサインを終え、雑談していたら、突然そんな話題が飛び出したのだ。
「そう。ヒット大会の勝利を祝う会でね、例年すごく華やかなんだ。豪華な食事も出るし──」
「ちょっと待ってください!そんなのがあるんですか⁉ぼく、初耳ですけど!」
「あれ、誰も言ってなかった?今週末の土曜日なんだけど」
「聞いてないです!」
ジョーイ先輩は、あちゃーって顔をしてる。
いつもにこやかな笑顔を浮かべてる先輩のこんな表情はめずらしい……って、そうじゃなくて!
「もしかして、“ボスからひと言”みたいなのを求められたりしますか⁉」
「うん。トロフィーの授受があって、その後ひと言求められるかな」
おそるおそる聞いたら、あっさりうなずかれて、頭を抱える。
やっぱりかーーー!
「うわぁ~っ、どうしよう~っっ!」
根がビビりなんだ。
全員の注目を浴びて壇上になんて立ったら、絶対足がガクブルしちゃう!
「いや。そんなガチガチに構えなくても、ラフなコメントでいいんだよ」
そういう問題じゃないっ!
ラフでいいとかそういうことじゃなくて、みんなの前に立って話すってこと自体が、ぼくにとっては大問題なんだーーーっ。
フンスフンスするぼくに、ジョーイ先輩はコホンと咳ばらいして聞いてくる。
「えぇっと。ところで、ナオ君はフォーマルって持ってる?」
なんか、話をそらされた?
「キチンとした服ってことですよね?……そんなのないです」
ジトリとした目を向けながら答える。
「そうか。ちょっと待ってて」
ジョーイ先輩は、ぼくの視線をサラリと受け流して、どこかに電話をかけだした。
そのわずか一時間後。
ぼくは大量の見本品に囲まれて半泣きになっていた。
「遠慮しなくて大丈夫。ちゃんと予算は取ってあるから、好きなのを選んで!」
ファミリーのお財布を握るヒロ先輩が、ドーンと胸をたたいてみせるけど……。
いやいや!そうじゃないって!
遠慮じゃなくて、こんな高級なの、どれを選んだらいいのかわかんないよーーっ!
事の起こりは、ジョーイ先輩がかけた一本の電話。
驚くべきことに、ぼくのスーツを仕立てるために出張テーラーを依頼していたのだ!
そして現在、採寸を済ませて生地やデザインを選んでいるところ。
なんだけど、正直ちんぷんかんぷんだ……。
「えぇっと。ぼく、スーツとか着たことなくて。よくわかんないから、お任せします」
なぜかここには、ぼくのスーツ新調を聞きつけたカポたちが集合してる。
続々とやって来るみんなを見た時、実はヒマなの⁉なんて内心で思っちゃったよね。
……でも、ちょうどいいや。
みんな、オシャレで大人っぽいし、スーツ選びだってきっとお手のものだろう!
ぼくは丸投げを決めた。
「そういうことなら、堅苦しくなりすぎないモダンフォーマルで」
すぐにカイト先輩がデザインに言及した。
「だったらこの際、ジャケットとパンツのセットアップでいいんじゃね?」
「いいね!ジャケットはひとつボタンにして、細身のニットタイと合わせて抜け感を出したら、きっとナオによく似合う」
ショーマ先輩が提案し、ルイ先輩がそれにノッてさらに詳細を詰めていく。
……す、すごい!どんどん決まっていく!
「生地はどれにすんだ?」
東のパンダが、ノリノリでみんなの前に生地見本を引っ張り出す。
すかさず、南のヘビがキランと目を輝かせて一枚のサンプルを指さす。
「このブルーグレーのチェック柄など、初夏にもふさわしく爽やかじゃないですか?」
「いい柄ですが、ややカジュアルに寄りすぎでは?ナオ君は勝利チームのボスですからね……たとえば、このくらい色味は抑えて、その分シャツやタイで遊び心を加えてもオシャレかと」
コーワ先輩が少し考えるようにして、別の生地サンプルを示す。
「いいな!」
北欧貴族みたいな紳士は、そのセンスもバツグンのようで。
コーワ先輩の示したコーディネート案に、みんなのテンションがめちゃくちゃあがった。
……てか、いつの間にかこの三人めっちゃ馴染んでるな!
違和感なくこの場に座っている三ボスの順応力にうなった。
そんな調子で、あっという間にぼくの全身コーディネートが決定した。
わぁ~!どんなのが仕上がるんだろう?
ワクワクするなっ!
現金なもので、ユウウツだった祝勝会が、一気に楽しみになった。
やってきました、土曜日!
そう、ついに今日は祝勝会だ。
「う~っ、緊張するよぉ」
ドキドキの胸を押さえながら、仕上がったばかりのパンツとシャツに袖を通す。
わ~っ!ピッタリだ!
パリッとした真新しい生地は、不思議なくらいぼくの体に馴染んだ。
次に、ニットタイを結ぼうとして。
「あれ?あれれれ?」
制服のネクタイはちゃんと結べているはず。
なのに、おかしいな。素材が違うせいか、なかなかうまく結べない。
──コンコン。
その時、部屋の扉がノックされる。
「はーい、どうぞ~」
気もそぞろに返事して、ああじゃないこうじゃないと鏡の前でニットタイと格闘していると。
「こら、ナオ!部屋の鍵を開けっ放しにしちゃダメだろう」
「わっ⁉」
声と同時、うしろから伸びてきた腕にコツンとゲンコツを落とされる。
ポーズだけでちっとも痛くなかったけど、驚いてピョンッと体が跳ねた。
「カイト先輩!」
振り返ると、カイト先輩が腰に手をあてて立っていた。
うわ~っっ!めっちゃキマッてる!
スーツ姿のカイト先輩はいつも以上に大人っぽくて、めちゃくちゃ様になっていた。
だけど、目をキラキラさせるぼくとは対照的に、カイト先輩の表情は厳しい。
……ヴッ‼
「それに、来訪者の確認もせず部屋に招き入れるなんて不用心だ」
続けざまに注意されるが、反論の余地もない。
「うぅぅっ、ごめんなさいっ!次から気をつけます!」
ぼくが素直に謝れば、カイト先輩はふっと表情をやわらげた。
「わかればいい。なにかあってからでは遅い。じゅうぶん気をつけてくれ」
ホッと胸を撫で下ろしていると、カイト先輩がぼくの首もとにスッと指を伸ばしてくる。
ん?
「貸してみろ」
「は、はい!」
あっ!代わりに結んでくれるのか!
カイト先輩が結びやすいように少し胸を張り、顎を軽く上げた。
先輩の指は器用に動き、シュルシュルと結んでいく。
あっという間に結び終え、最後に形を整えてくれる。
「うん、いいな。ジャケットも合わせてみてくれ」
「はいっ」
カイト先輩が着やすいように広げてくれたジャケットに、いそいそと腕を通す。
「ああ、よく似合ってる」
このカッコ、そんなにいい感じなのかな?どれっ!
はやる思いで全身が映る鏡に向き直る。
「おお~っ!」
鏡の中の自分は、なかなか様になっている──ように見えた!
へへっ!けっこうイイ感じなんじゃないかな⁉
テレテレと頬をゆるませるぼくをジッと見ていたカイト先輩が、突然ぼくの腕を取る。
「ふぇっ?」
いったいなにごとかと、目をパチパチさせていると。
「せっかくだから、頭も軽くセットしよう」
……ああ、なるほど!髪の毛か!
そうして、カイト先輩の腕を引かれてたどり着いた洗面所。
「そのまま、じっとしていてくれ」
カイト先輩はぼくの後ろに立つと、軽く水で濡らした手でぼくの髪をクシャクシャと梳かしだす。
「あのっ!ぼくの髪、濡らすとあんまりよくないかも……!クルクルになって、いつももっということ聞かなくなっちゃうから!」
「大丈夫だ」
こうも自信満々に言い切られると、それ以上ストップをかけにくい。
……まぁ、いっか!
腹をくくって、任せてみることにした。
「すごいっ、美容師さんみたい!」
ぼくの不安は、早々に消えた。
カイト先輩は、とっても手慣れていた。
ドライヤー片手に手グシを通し、魔法のように整えていく。
「ははっ、さすがに本職には及ばない。だが、こういう作業は嫌いじゃないな」
カイト先輩はワックスで軽く固めてセットを完成させた。
「よし、これでいいだろう」
「す、すごーーーっっい!」
いつも、くるんくるん好き勝手に跳ねている髪が、バッチリとキマっていた。
しかもクセ毛をうまくいかして、とっても自然な仕上がりだ。
「これ、ホントにぼくの髪⁉カイト先輩、絶対プロより上手ですっっ!」
「気に入ってもらえたならよかった」
ぴょんぴょんと跳んで喜ぶぼくに、カイト先輩は少し照れたようにフッと口の端をゆるませた。
「そろそろ会場に行くか」
「はいっ!」
全身コーデをバッチリ決め、気分も足取りも軽い。
これなら心配してた“ボスからひと言”だって、バッチリとキメられそうな気がするぞ~!
ウキウキで会場へと向かったのだった。
キラキラの祝勝会、開幕!
祝勝会の会場となるのは、なんと都内一等地のラグジュアリーホテル!
ひぇええっ!
どんだけ~~っっ⁉
一歩足を踏み入れて、まばゆいばかりの豪華さに圧倒される。
ぼくはすっかり腰が引けちゃっていたけど、カイト先輩は堂々としたものだ。
すごいなぁ……!
きっと、普段からこういうところに来慣れてるんだろうなぁ~。
「ナオ?どうした?行くぞ」
「は、はいっ!」
前を行くカイト先輩に続き、慌てて乗りこんだエレベーター。
コレ、いったい何階まで上がるの~っ⁉
ぐんぐん上がっていく階数表示に目を丸くしながらたどり着いた、広~いロビー。
すでにカポたちと見習いソルジャー三人も到着していて、思い思いにくつろいでいた。
ぼくとカイト先輩に気づき、みんなが一斉に集まってくる。
うわ~っ!
今日はみんな、一段とキラキラしてる……!
「やぁ、ナオ君!その格好、すごく似合ってるね」
「シャレてんじゃん!」
ジョーイ先輩がぼくの全身を眺めて微笑み、その横ではショーマ先輩がグッと親指を立ててみせる。
「おお~っ!そのタイとジャケットの組み合わせ、超カッケー!」
ひょっこり顔をのぞかせた東のパンダがニッカと白い歯を見せ、南のヘビも目を細くする。
「とても素敵です」
みんなが褒めてくれて、照れくさいけど嬉しくて。
自然と頬もへにゃんとゆるむ。
「へへっ、ありがとうございます。みんなも、すごくカッコイイです……っ!」
そうなのだ!
みんなぼくを持ち上げてくれるけど、こなれた着こなしでスーツを身にまとう先輩たちこそ、レベチにカッコイイのだ……!
「あれ~?ナオちゃん、髪もキマってるね」
ルイ先輩に髪型を褒められて、ニコニコで答える。
「あ!これはカイト先輩がやってくれて……!」
普段なら激おこの『ナオちゃん』呼び。
だけど今は、嬉しいから目をつぶっちゃう。
「カイトがやったの⁉意外~っ!」
「アンダーボスにそんな特技があったとは!」
ルイ先輩は驚いた様子で、隣のヒロ先輩と顔を見合わせている。
「なるほど。そういえば、カイトは昔から手先が器用だったな」
カイト先輩と幼なじみのコーワ先輩だけが、納得した様子でうなずいている。
「たいしたことじゃない」
照れ隠しか、カイト先輩は少し早口で答えた。
「なぁ、そろそろ中に入ろうぜ!」
「ああ」
ショーマ先輩がクイッと奥を示し、総勢八人のイケメン集団+α(ぼく)は奥のパーティールームに移動する。
「ナオ君、先にちょっとのぞいたら、ビュッフェがすごく豪華だったよ」
肩を並べてきたジョーイ先輩にささやかれて、一気にテンションが上がる。
「ホントですか⁉もしかして、プリンもあったり……って、プリンは違うか」
言いかけて、さすがにこういう場にプリンはないかと気がついて声が小さくなる。
「大丈夫、プリンもちゃんとあるよ」
「えっ⁉」
「叔父貴にナオ君の好物はしっかり伝えてあるからね。抜かりはないよ」
「叔父貴って……?」
コテンと首をひねるぼくに、ジョーイ先輩は笑みを深くする。
「ん?言ってなかったっけ。私の叔父が真緋亜学園のOBでね。今年の祝勝会に会場を提供してくれたんだ」
「そうだったんですか……!」
OBの協力で開催するとは聞いていたけど、ジョーイ先輩の関係者だったんだ!
「ちなみに、今年はルイの実家の日向物産グループが食材提供に協力してくれてね。珍しい輸入食品なんかもいっぱい並んでるよ」
「え、ルイ先輩の実家って、あの日向物産グループなんですか⁉すごっ!」
知る人ぞ知るグループ会社の名前に驚く。
目を丸くするぼくに、ルイ先輩はなんでもないことのように、ヒョイと肩をすくめる。
「実家を褒めてもらえるのは嬉しいけど、別に俺自身がすごいわけじゃないからね~。それにしても、豪華メニューと聞いて真っ先にプリンって……ぷふっ!」
「ルイ先輩⁉なんか馬鹿にしてます⁉ってか、さっきはスルーしましたけど、ぼくのこと『ナオちゃん』って呼んでたのも、ちゃんと聞いてましたからねっ⁉」
「やだなぁ、そんなに目くじら立てないで。ただカワイイなって思っただけで、馬鹿にしたわけじゃない。つい『ナオちゃん』と呼んでしまうのだって、可愛さゆえさ」
ルイ先輩は言うに事欠いて、地雷ワードまで踏み抜いた。
「あーっ!前にも言いましたけど、男子に『カワイイ』って、絶対誉め言葉じゃないですからねっ⁉」
「え~?そうかな?」
「少なくとも、ぼくにはそうなんです~っっ!」
「まぁまぁ。ふたりとも、いったんその辺で」
苦笑したヒロ先輩にポフポフと肩をたたかれて、ハッと顔を上げる。
いつの間にか、パーティールームの前だった。
扉の前で微笑むスタッフさんに、引きつる笑顔でペコッとして中に足を進める。
……うぅぅっ、ルイ先輩のせいで恥かいちゃったじゃないかぁ。
ルイ先輩に恨みがましい目を向けるけど、涼しい顔で流される。
はぁ~、敵わないよな~。
その時。
少し暗めになっていたフロア内の照明が、パッとトーンアップして、一気に視界が開ける。
「ナオ、もうじき始まるぜ!」
ショーマ先輩の声で、フロア前方の一段高くなった檀上に目を向ける。
……あっ! 黒崎先生だ!
「みんな、まずはヒット大会お疲れさま!今年度のヒット大会は近年稀に見る激戦で、どこのファミリーが首位をとってもおかくしくなかった。今日は勝利した西ファミリーを祝し、全員の激闘を共に称え合おう」
黒崎先生の言葉に、首位を獲得した西ファミリーだけでなく、勝利に破れた他ファミリーのみんなにも笑顔が弾けた。
もちろん、ぼくの心も浮き立った。
……西ファミリーだけで盛り上がるより、こっちの方がずっといい!
「それでは、これよりヒット大会の祝勝会を開催する!」
黒崎先生が高らかに開会を宣言し、盛大な拍手に包まれる。
華やかな開幕に感動していると、さっそくトロフィーの贈呈で指名を受けた。
「ナオ、大丈夫だ!自信を持って行ってこい!」
緊張するぼくの背中を、カイト先輩がポンッとたたく。
「っ、はいっ!」
一気にシャキンと背筋が伸びた。
みんなが示し合わせたみたいにサッと道を開ける。
よーし!
西ファミリーのボスとして、ここでカッコ悪い姿は見せられないっ!
拍手を受けながら壇上に向かい、胸を張って立つ。
「君が西ファミリーを勝利に導いた。俺も担任として、誇らしい。西ファミリーの首位獲得、おめでとう!」
「ありがとうございます!」
黒崎先生から『W』が刻印されたトロフィーを受け取る。
わぁっ、想像したより重い!
それに、キラキラでカッコイイ……っ!
感動で胸がジーンとした。
コメントを求められ、ぼくは考えるよりも先に口を開いていた。
「みんなから祝ってもらえて、すごく嬉しい。でも、ぼくひとりじゃできなかった。みんなで掴んだ首位です。みんな、ありがとう……っ!」
本当は、もっとカッコいい言い回しとか、受けそうなネタなんかを色々考えていた。
でも、全部吹き飛んだ!
だって、みんなへの『ありがとう』以上に伝えたいことなんて、なかったんだから……!
ぼくの拙いあいさつに大歓声が渦を巻き、拍手が鳴り乱れた。
そこに、カイト先輩が声をあげる。
「ベストパフォーマンス!ベストオブボス・ナオ!ブラボー!」
えっ!
カイト先輩の声にカポたちも続く。
「ベストパフォーマンス!ベストオブボス・ナオ──‼」
すると、他の参加者たちも次々に声をあげ、波のようにぼくを称える声が重なる。
「ベストパフォーマンス、西ファミリー!ベストオブボス・ナオ──‼」
ぅわぁ~~っ‼
うぅぅっ、こんなんされたら……っっ!
ぼくはもう、涙をこらえることができなかった。
「みんなぁ~、ありがとうっ。……ありがとうっっ!」
えぐえぐとしゃくりあげながら、壇上を下りる。
そんなぼくの頭を、肩を、背中を、みんながワシャワシャと撫でまわしてもみくちゃにする。
「おめでとう、ナオ!」
「西ファミリー、やっぱ強ぇな!」
ファミリーの別なんかなく、みんながぼくを取り囲む。
せっかくの髪型がくずれちゃうとか、バシバシたたかれて痛いだとか、もうなにがなんだかわかならないくらい胸も頭もいっぱいいっぱい。
「ナオ、よくやったな!君は西ファミリーの誇りだ」
いつの間にかすぐ隣にカイト先輩がいて、クシャクシャになったぼくの髪をもっとクシャクシャにかき混ぜながら笑う。
「カイト先輩~~っ!」
「そんなに泣いたらまぶたが腫れるぞ」
カイト先輩が腕を伸ばし、ぼくの濡れた目尻をぬぐってくれる。
だけどぬぐってもらったそばから、新しい涙があふれてくる。
「あーっ!アンダーボスがナオ泣かしてるぜ!」
「なっ⁉縁起でもないことを言うな!」
ショーマ先輩に向かいから指を差されたカイト先輩が、心外だというように目をつり上げる。
「アハハッ!」
ルイ先輩が笑い声をあげ、その横でヒロ先輩がすかさずポケットに手を入れる。
そうしてぼくの前にスッと差し出されたハンカチ。
「これ使って」
でも、ぼくの前に突き出された選択肢はひとつじゃなくて。
「……えっ?」
ジョーイ先輩にコーワ先輩。東のパンダに南のヘビ、同時に伸びてきたみんなの手。
その手に握られた色柄バリエーション豊富なハンカチを前に、パチクリと目をまばたく。
「フッ。本当にナオは慕われているな」
困惑して固まったぼくのすぐ横で、カイト先輩がつぶやく。
次の瞬間には、カイト先輩が自分のポケットから取り出したハンカチで、ぼくの目もとをぬぐっていた。
「あーっ!」
「アンダーボス、ズリィ!」
「抜けがけだっ!」
不平不満の大合唱に、カイト先輩はしれっと返す。
「アンダーボスの特権だ」
「ハァ⁉」
「他の誰のハンカチを選んでも角が立つだろう? そう考えれば、むしろ平和的だ」
カイト先輩が涼しい顔で断言すれば、みんな苦笑いでハンカチを引っこめた。
「アンダーボスには敵わないぜ」
ぼくの涙が乾いたタイミングで、ヒロ先輩が奥の一角を示す。
「ナオ。ビュッフェに行ってみない?」
とびきり魅力的な誘い……!
「んっ、行きますっ!行きますとも~っ!」
パアァッと笑顔が弾ける。
会場内はすでにフリータイムになっており、みんな思い思いに会話と飲食を楽しんでいる。
その様子を横目に、ぼくらもノリノリで奥のビュッフェコーナーに移動する。
「ぅわぁあ~~っ!すごいーーーーーっっ!」
ブュッフェ台には、ずらりと並んだフィンガーフード。
色とりどりで、目にも楽しい料理の数々にぼくの目がハートになる。
だけど、目の前の料理は豪華なだけじゃない。
どれも手に取りやすいように、ピンチョスだったり、カップで小分けにされたり、手に取りやすいように工夫がされている。
デザートコーナーもめちゃめちゃ充実していて、チョコレートファウンテンなんて見上げる高さ!
もうっ、感動しすぎて声も出ない。
「おっ!ナオの大好きなプリンがあっちにあるぞ!」
「おいおい、プリンはデザートだろ?まずは肉食おうぜ、肉ー!」
ぼくの顔にも、みんなの顔にも笑顔が浮かぶ。
「ナオ、これめっちゃうまいぜ!ほら、食ってみ?」
ズイッと差し出されたサーモンとモッツァレラチーズのミニキッシュを、勢いのままパクッとひと口。
「あ、ありがとうございます──……んっ⁉これ、すごくおいしっ!」
「ナオ君、こっちも食べてごらん。きっと君も気に入るよ?」
「いやいや!それより断然コッチのがうまいって!ほらナオ、あーん!」
「わわわっ」
おいしい料理にドリンク。
高層階から望む綺麗な景色。
なにより最高の仲間たちの弾ける笑顔と、いつまでも尽きない会話。
最高にハッピーな祝勝会は、まだ始まったばかりだ──。
おしまい