『あつまれ!元素くん』書き下ろし限定SS

元素学園のある日の放課後

それは、とある日の放課後。

帰宅しようとカバンに荷物をまとめていると……。

「そういや水素ちゃんって、休みの日はどう過ごしてんの?」

パツッとしたボブがとっても似合っているオシャレ女子・リンちゃんに突然そんな質問をされた。

「休みの日かあ……」

うーん、鉱物マニアだから原石を眺めたりしてるうちに一日が過ぎてることがよくあるけど……。

そんなこと伝えても反応に困るよなあ。


「俺はー、モデルの仕事で忙しかったり、溜まったエレスタのDM返したりしてるかなー」

「あごめん、炭素くんには聞いてない」

答えに迷っていると、金髪がよく似合うイケメン・炭素君くんがするっとナチュラルに会話に混ざってきた。

リンちゃんは笑顔で即ブロックしていたけれど。

炭素くんは胸を押さえながら「みんなもっと俺に興味持ってよ!他クラスから見ると一応超モテ男子だよ俺⁉︎」といつものように騒いでいる。


「えっと私、鉱物が好きで……石眺めたりして過ごしてるかな……えへへ」

何それ?って感じだよね……。小学校のときもよくバカにされてたから……。

控えめに回答すると、リンちゃんは猫みたいな目を一度だけぱちくりさせた。

「え、何それめっちゃいい趣味じゃん」

「え!そ、そうかな……?地味だけど……」

「私最近、天然石のアクセサリーに興味あるの。今度色々教えてよ」

「え!も、もちろん……!」

リンちゃんのポジティブな反応に、思わず嬉しくなってしまう。

まさかそんな風に受け入れてもらえるなんて……!

困らせてしまうだけだと思ってたから、本当に嬉しい。


「俺ら、この前のミネラルフェアでたまたま会ったもんね♫」

「え?そーなの?水素ちゃん」

炭素くんにウィンクされ、リンちゃんの問いかけにこくこくと頷く。

ミネラルフェアでクラスメイトに会ったこと自体気まずく思ってたけど、炭素くんも私の趣味をバカにしたりはしなかったんだよね。

「塩素くんもたまたまその場にいたんだよー。あ、ちょっとそこの塩素くーん」

たまたま帰りがけだった塩素くんを、教室のドアの前で炭素君くんが呼び止めた。

塩素くんはリュックサックを肩掛けしながら、無言でこっちに近づいてくる。


「……なに?」

「俺らこの前のミネラルフェアで水素ちゃんとたまたま会ったよねって話してて」

「そうだな」

チラッと塩素くんの視線が飛んできて、バチっと目が合う。

塩素くんの瞳って、本当に宝石みたいにキラキラしてるなあって、目が合うたび思う。

……って、あんまりじっと見てたら失礼か!

「あっ、そういえば、今日たまたま石のコレクション少し持ってきてるんだった……!」

塩素くんからパッと目を離して自分のバッグに視線を落とした瞬間、そんなことを思い出した。

リンちゃんと炭素くんは興味津々というように、目を輝かせている。


「えー! 見せて見せてどんなのー?」

「俺も見たーい。水素ちゃんのおかげで、ダイヤ以外も興味出てきたんだよね」

「えっとね、どれも粒が小さいんだけど……」

小袋に入っていた天然石をザラーッと机の上に出してみた。

色とりどりの天然石の煌めきを見るだけで、胸が躍る。

「うわー、小さいけどすごく綺麗!これとかチョーカーにしたら可愛いだろうなー!」

リンちゃんがワインレッド色のガーネットを指さした。

私もこのガーネットは、リンちゃんにすごく似合うと思う。いつもエネルギッシュなリンちゃんのイメージにもぴったりだ。

「ガーネットの名前の由来はザクロで、ザクロの実に似てるからなんだけど……」

「へぇー!確かに似てる!」

「石言葉っていうのもあって、情熱とか努力家みたいな意味合いなの。だから、いつも頑張ってるリンちゃんにぴったりだね」

にこっと笑みを浮かべながら伝えると、リンちゃんは照れくさそうにした。

「えー、水素ちゃんからそう言われると、ますますガーネット集めたくなってきたー」

「うん、ぜひ!」


「はいはーい、水素ちゃん、俺のイメージに合う石はー?ダイヤ以外で!」

すると今度は、炭素くんが元気よく挙手をして質問してきた。

炭素くんのイメージに近い石かあ……。

しかもダイヤではないとなると……。

うーんと悩みながら私はひとつの黒い天然石を手に取った。

「“炭”のイメージからオニキスかなあ」

「へー!かっこいい! なにこれ漆黒で艶々してる!」

オニキスは私も大好きな石のひとつだ。

黒い天然石ってそんなにないけど、古代からお守りに使われてきた特別な石でもあるんだよね。

「オニキスは、特にロマンチックな石言葉とかはないんだけどね……」

「そーなんだー。ちょっと残念」

「うん、でも、この前の展示会での黒スーツがすごく大人っぽくて似合ってたから」

そう伝えると、炭素くんは一瞬キョトンとしてから、リンちゃんと同じように照れくさそうにした。

「なんか、ほんと水素ちゃんって不意打ちなんだよな〜〜」

「わかるー。急に直球で褒めてくるから照れざるをえないのよね」

炭素くんの言葉に、リンちゃんもなぜかうんうんと頷いている。

二人とも、天然石に少しでも興味を持ってくれたのなら嬉しいな。

あとは……と、チラッと塩素くんを見上げる。

やっぱり塩素くんと言えば、エメラルドってイメージだけど――。


「塩素くんには、このペリドットも似合いそう!エメラルドよりも明るい黄緑でまた違った美しさがあるの」

「ペリドット……?」

塩素くんに見せたのは、ペリドットというエメラルドとは別物の天然石。

塩素くんのミントグリーン色の髪の毛にも色が近くて合いそうだと思っていたんだ。

「ペリドットはアクセサリーにもしやすくて、シンプルな服にも合うんだよね」

「へぇ……たしかに綺麗だな」

じっと石を見つめてつぶやく塩素くん。

私はペリドットを一粒摘んで、そのまま塩素くんの耳に近づけた。

「ほら!イヤーカフとかにしても、このエメラルドのピアスと相性良い!」

「え……」

「ペリドットの石言葉は夫婦愛だから、恋人とかとペアでつけるのもいいんだって」

……と熱く語ってから、塩素くんが目の前で固まっていることに気づいた。

何も考えずに耳元に石を寄せてしまったけど、思ったよりも顔の距離が近くなっていた。

塩素くんは目を軽く見開きながら、まさに石みたいになっている。


「わわ!ご、ごめん私つい夢中になって……!」

焦った私はすぐに離れようと体をのけぞる。

しかしその瞬間、バランスを崩してしまい――。

「水素!」

倒れそうになったところを、塩素くんにぐっと手を掴まれた。

「「「「あ」」」」

塩素くん含め、あ、という声が重なる。

もちろんその瞬間、シュワシュワーーーッ!と結合の音がし始め……。

「「わー!危ない!」」

叫んだリンちゃんと炭素くんが、慌てて私たちを引き剥がして、近くの窓を開けて換気してくれた。

あ、危ない危ない……!!

うっかりで結合して、塩化水素を生み出してしまうところだった……!


※塩化水素は鼻にツーンと刺さる刺激臭があるよ。目が染みたり喉がイガイガしたりするからあんまり吸わない方がいいのだ!危機一髪!


「ご、ごめん私がうっかりしたせいで……!」

「いや今のは塩素くんが水素ちゃんと近すぎてぼんやりしてたせいでしょ」

炭素くんがビシッと塩素くんのことを指さすと、塩素くんはじろっと炭素くんのことを睨んだ。

私が迂闊に近付いてしまったせいなので、ただただ申し訳ない……。

大事にならなくてよかったあ……!

「ごめん水素。ただびっくりしただけだから」

「ううん、こっちこそごめんね!」

塩素くんに向かってペコペコと頭を下げる。

カリウム先生にも“結合”には気をつけろってあれほど言われてたのに……!

うっかりとは言え、気を引き締めないとだ!

「とにもかくにも、天然石の魅力教えてくれてありがとう、水素ちゃん!」

「俺ももっと調べてみたくなったよー」

「……俺も、ペリドットとか知らなかったから」

「みんな……」

自分が好きなものに興味もってもらえるって、こんなに嬉しいんだ。知らなかったなあ。

なんだかすごく、胸が熱くなっている。

こんなふうに喜んでもらえるなら、Aクラスのみんなをイメージした天然石のアクセサリーとか、いつかプレゼントできたらいいな。

そんなことをひっそり考えた。

「うん、私ももっともっと、みんなのこと知りたいな!」

自分の“好き”を知ってもらえて、心からハッピーな一日だった。

私もこれからもっともーっと、みんなのことを知っていけますように♫


おしまい

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