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わたし、千代原ほずみ。ひょんな事から「都道府県男子」四十七人をリアル化しちゃった、ごくフツーの中学二年生。
自県へのプライドのせいで、しょっちゅうバッチバチのケンカをする彼らを、仲良くさせる任務があるんだ。
先日の東北祭りをめぐる旅で、東北寮の六人と仲良くなれて、ホッとしてたんだけど――。
その日、事件は起こったんだ。
私は、宮城君のバンド「DATEナイトメアーズ」のライブ準備を手伝いをたのまれて、東北寮におじゃましてた。
ポスター用に、ギターをかき鳴らす宮城君のイラストを描いてたら、あっという間に夜。
すると、同じく遊びに来てた北海道君が、夕飯を作ってくれることになったんだ。
メニューは、なんと本場の「札幌味噌ラーメン!」
日本三大ラーメンの一つで、冬の寒さが似合う濃厚ラーメンなんだって!
福島君も、「喜多方ラーメン」が有名な、同じく日本三大ラーメンの一つの土地。
「我(われ)もお手伝いしましょう」って、着物をたすきがけして、一緒にキッチンに立ってくれたの。
しかし――。
「……北海道、この、白いかたまりは?」
「お。福島、いいところに目をつけたな。それはラードだ。豚の脂だべさ」
「豚の脂を、こ、こんなに? ラーメンを作るんですよね?」
「もちろんだ。見てれや」
北海道君は、なぜかでっかい中華鍋をコンロに置く。
それをケムリが出るほど温めたら、たっぷりのラードで、ひき肉や玉ねぎをいため始めた。
私も思わず横からのぞきこむ。
「あ、あれ? 野菜いため……じゃないですよね?」
「ハハハ、まぁ、お楽しみだ」
できあがったのは、どう見ても野菜いためなんだけど、彼は別のおなべに用意したスープをおたまですくい、中華鍋にジャバーッ。
さらに味噌も投入していく。
福島君は思ってるのとちがうのか、みるみる眉間にシワが寄っていく。
北海道君は手ぎわよく、ゆでた麺をどんぶりに盛り、そこに中華鍋でぐらぐら煮える「元・野菜いため」を、汁ごとザバーッ。
チャーシュー、メンマ、ねぎ、最後にバターをトッピング!
「わ……! おいしそうですっ」
私は大きな拍手。
いつの間にか集まってきてた宮城君たちも、ほこほこ上がる湯気と、濃厚な味噌バターの香りに、バンザイ三唱。
だけど、福島君は凍りついたままだ。
(そう、まるで裏磐梯の「五色沼」が凍って色が変わっちゃったみたいに、顔色が真っ白だよ……!)
「ウソだべ。ラーメンといえば、透明感ある澄みきったスープです。会津武士の誠の心のように。このラーメンは、ラードの膜すら浮かんでいるではないですか」
「北海道は寒いべさ。ラードのおかげで、下のスープが冷めずに、熱々で食えるんだわ。栄養もあって、体力がつくし、なによりうめぇ! 最高のラーメンだ」
「最高? 最高は、我の喜多方ラーメンです。朝からこんな脂っこいものを食えっこねぇです」
「朝から食うのかい」
「ええ。喜多方は、商人がいっぺぇ住んでいますから、早朝に『朝ラー』で力をつけて、働きに出るのです。最高のラーメンと言うなら、それは我の喜多方ラーメンです。いくら食べても、腹にもたれない」
福島君は、きっぱりと、誇らしげに言いきった。
北海道君は頭をガリガリかいて、ふぅむと息をつく。
「相容れんなぁ、福島」
にこにこ笑顔が、急に温度が下がった。
日本一寒い、北海道の陸別みたいな表情だ……!
「ほ、北海道君?」
てっきり、いつもの「北海道はでっかいどう!」な度量で、まるっと受け止めてくれるんだと思ってた。
安心して札幌ラーメンをいただいてた私は、あわてふためいちゃう。
「あ、あの、お二人とも、冷静に」
福島君もラーメンを置いて立ち上がる。
「千代原どの。某テレビ番組の日本ご当地ラーメン総選挙、見ましたか」
「い、いえ? でもそんなのやってたような……?」
「去年の一位は、福島のラーメンでした。しかし今年は、なぜか北海道の函館ラーメンが、一位を取りました。しかも我がラーメンは、札幌ラーメンにもおよばねがった。なしてだ! 我はくやしい!」
「その番組については、北海道も去年、くやしい思いをしたからな」
な、なんと、どっちもラーメン選挙の結果を気にしてたんだっ!?
ゆずれない、ご当地ラーメンへの想い、そして誇り!
バチバチバチッと二人の間に火花が散る。
(皆は麺が伸びないうちに、とりあえずラーメンをすすってる)
北海道君は頭のタオルをはずし、テーブルへ置いた。
福島君も腰にさした、会津武士の魂、日本刀の束に手をかける。
「わあああっ、二人とも落ち着いてください!」
私もラーメンどんぶりを手にしたまま、いよいよ立ち上がる。
「「ラーメンバトルだ」」
「へ?」
にらみ合う二人は、それぞれ不敵に唇のハシを吊りあげる。
「宮城のライブ当日に、会場前で、屋台をやろう」
「よいでしょう。屋台で人気が高いほうのラーメンが『日本で一番うまいラーメン』ということですね?」
「それでいくべさ」
そ、それは、三大ラーメンの残り一つ「博多ラーメン」ご当地の福岡君ともモメそうな気がしますがっ。
と、とにかく、大変なコトになってしまいました!?
※
その後、福島君は、ご当地の喜多方にこもって老舗ラーメン店に修行へおもむき、クリアなスープのレシピを伝授されてきた。
北海道君は山へ入り、畑をめぐり、最高の札幌ラーメンの材料を集める旅に。
――そして、一週間後の当日。
「ヘイらっしゃーい! 新鮮な北海道バターもたっぷり、味噌香る濃厚ラーメンだべさ!」
「よく来らったなし。こちらは、豚と煮干しの出汁がきいた、爽やかラーメンです」
DATEナイトメアーズのライブへご招待いただいた私と東京君は、会場前の盛り上がりにポカーンだ。
入り口前の広場は、ビジュアル系な服装のお姉さんお兄さんで、黒山の人だかり。
でも皆、会場に入らず、手前で足が止まってる。
向かい合うように設置された屋台。
ずらりとならぶ、立ち食い用のテーブル。
その中で、完全に死んだ目でお会計を手伝う岩手君や、ガルガルしながらラーメンにトッピングをのせる秋田君、北海道君の味噌ラーメンに牛乳を混入しようとしてる青森君の姿も見える。
そして屋台から漂ってくる、スープの香り!
お客さんたちは目を輝かせ、二種類のラーメンをすすってる。
「お昼ごはんまだだから、お腹すいちゃいますね」
「うまそうだよな。開演まで十分あるから、俺たちも食っていくか」
東京君も左右の屋台を見比べて、お腹のあたりに手を当てる。
「千代原と東京! ちょうどいいところに来た!」
北海道君と福島君が、わざわざ屋台から出てきた。
「さぁ、食べて判じてください。うまいのはもちろん、我が福島の喜多方ラーメンです!」
福島君は、一週間のラーメン修行によって、ますます研ぎ澄まされた横顔で、スイッとどんぶりを突きだす。
「いいや、ワタシの北海道、札幌ラーメンだべさ!」
北海道君も、大地を駆けめぐる食材調達の旅で、ますますでっかくなった上腕二頭筋で、ずんっとどんぶりを突きだす。
二人はふたたび、バチバチバチッと視線をぶつけ合う。
「で、では、いただきます」
私はありがたく手を合わせ、まず喜多方ラーメンを一口。
「んんっ。このスープ、後味までクリアッ。いくらでもするする食べられちゃいそうです!」
「札幌ラーメンも、ガツンと濃厚なスープで、すげぇうまい。腹へってる時に最高だな」
感動する私たちに、店主たちはうんうんと満足げにうなずく。
「それではこれをたのみます」
「ワタシらはバトルの続きだ」
二人は私には大きな箱を、東京君には紙の束を渡してくる。
投票箱。そして、投票用紙って、書いてありますが……。
「お客に、うまいと思ったほうの名前を記入して、箱に入れてもらってくれ」
「任せました」
「「え?」」
わ、私たち、宮城君のライブを聴きに来た、はず、なんですけども……???
二人の屋台は、それぞれ一時間たらずで完売。
東京君は、さすが日本経済の中心のリアル化男子だ。すさまじい速さで投票用紙を集計してくれた。
「うわ。同点だな」
「まさかの、引き分けですか……!」
東京君の手もとには、100・100の文字。
皆でのぞきこみ、顔を見合わせる。
北海道君は腕を組み、ふぅむと息をつく。
「しゃあねぇべさ。ここは千代原に、一票入れてもらうべや」
「そうですね。千代原どのが決めるのなら、我も納得しましょう」
福島君が、空白の紙を私の前に置く。
「そ、それは私には大役すぎて……っ」
どっちもおいしかったし、どっちを選んでも、今後の関係にヒビが入っちゃいそうだよ。
「千代原、エンリョはいらん。どーんっと思ったように書け」
「んだ。誠の気持ちで、我か、北海道か、選んでもらいたいです」
うめく私に、二人はズイズイッと顔を近づけてくる。
「う、ううううっ」
「おい、ほずみを困らせるな」
東京君が二人のおでこを押しもどそうとした、その時。
私は「でええええいっ!」と紙を真っ二つに引き裂いた。
「ほ、ほずみっ?」
「私はっ! 先日の東北仲良しタイムで、わかったんです。二人とも、ウソはつかないタイプですよね?」
「もちろんです」
「そんなもん、つく必要がねぇべや」
どこまでもまっすぐな福島君、雄大なふところ広さの北海道君。
なら――と、私は二人の前に、半分こにした紙をすべらせる。
「おたがいのラーメンを、今、食べてください。それで相手のラーメンがおいしいと思ったら、ウソをつかずに、投票用紙に書いてください。そうしたら、勝敗が決まるかもしれません」
見つめる私に、二人は眉間にシワをよせる。
「……なるほどです。我のラーメンを、北海道が本気でうまいと思えば、北海道と我の票で、プラス2点。我の勝利ということです」
「ワタシのラーメンを、おまえがうめぇと思えば、逆にワタシがプラス2点だべさ」
二人はすぐに、なべ底をかき集め、ラスト一杯のラーメンを作った。
真剣な瞳でどんぶりを交換すると、同時にズズッとすする。
「「……!」」
※
二人は書きこんだ投票用紙をふせたまま、東京君に渡す。
彼はそれを見て、ふぅっと大きな息をついた。
「ど、どうでした」
私は拳をにぎりこみ、東京君のクールな表情をうかがう。
「またもや同点。引き分けだ」
「じゃ、じゃあ、どっちも相手に入れたんですか!?」
おたがいのラーメンを食べたときの、あのきらきらした瞳。
絶対に「うまい!!」って思ってる顔だった。
ということは、双方を認めあい、一番まるっと丸く収まる、すばらしい引き分けなのでは――!?
東京君はぴらりと、二人の紙をひっくり返す。
「どっちも、自分に入れてる」
ガクッとずっこけちゃった!
当の二人は腕組みして、すーんと顔をそむける。
「そりゃあ、やっぱりワタシのラーメンが一位だべさ」
「いいえ、もちろん我のラーメンが一番です」
「えええ……っ?」
もうホントに、仲良くしてくださいよォ!
「だが」
北海道君が、いつものにこにこアニキの顔にもどって、バンッと福島君の肩をたたいた。
「おまえのラーメンも、なまらうまかった。ワタシも準備期間、ずーっとラードと味噌ばっかりだったからな。あっさりしたスープのうまさが、よくわかった」
「……そうですね。我も逆に、修行期間はずっと、あっさりしたラーメンばかりでしたから。濃厚でまろやかな味噌、うまく思いました」
福島君も、ほのかに照れ笑い。
「おたがいに、いいラーメンだった!」
「んだ!」
そしてガッと握手する。
たった今、東北と北海道のきずなが、さらに強く結び合わされました――!
よかったよかった、と、東京君と顔を見合わせた、そのとたん。
ゴッ。
北海道君と福島君の頭に、二本のチョップが降ってきた!
二人は同時にべしゃっとテーブルにつぶれる。
「「痛い!」」
「痛いじゃないっ。観客がだれも来ないと思ったら、おまえたちのシワザか!」
「も~、しょうがないヤツらだネェ。せっかくの宮城の晴れ舞台、無観客でかわいそーだったヨ」
サメのような歯をむき出して激怒するビジュアル系伊達男は、東北寮寮長・宮城君!
そしてラ・フランス色の髪、特産の将棋の駒ピアスをつけてるのは、東北寮の参謀・山形君!
チョップの手を引っこめた二人を眺めて、私はアッと思い出した。
「そうでした! 宮城君のライブ……!」
「とっくに終わっちゃったヨ。お客さんが全員、ラーメンに足止めされちゃってる間にさ」
「空虚な客席。白く凍てつくスポットライト。心に吹き荒れるやませになぶられ、孤独の闇に沈みゆくオレを、癒してくれるものは、もう、何もない……」
宮城君はクッと顔を背け、悲しみに震える。
「ほらァ、寮長がヘコんじゃったヨ?」
「ご、ご、ごめんなさい……っ!」
真っ青になって頭を下げた私の周りで、皆もバラバラ「悪がったなぁ」と苦笑いする。
「なーんて。オレっち有能な『金将』だから。ちゃーんとベツの〝ライブ会場〟を用意しといたヨ。観客はいなくなっちゃうけど、東北寮はモチロン、千代原っちと東京も、かぶりつきで観てくれるからネ」
山形君はに~っこり。宮城君はちょっと元気を出して、顔を上げる。
「山形っ、おまえはさすが、オレの右腕だ!」
「……オ、オラは、ちょっと用事を思い出した」
「ぼ、僕もだ。失礼する」
スッといなくなろうとした秋田君と岩手君は、山形君にえり首をつかみ止められた。
「さぁ、レッツ、エンジョイ~☆」
そんなわけで、私達は新ライブ会場へ強制的にワープ!
……まさかの、山形県の蔵王山、頂上へ。
いろんな小規模工業をやってる山形県のご当地神パワーで設営された、一日限りの特設ステージで、宮城君を始めとするDATEナイトメアーズ、ライブふたたび!
「ウッ。我、少し気分が……」
開演五分で、福島君はダウン。
さっきこってり味噌バターラーメンを完食したばかりなのに、ノリノリの青森君の「かでで(一緒に)ハネだら、みんなケヤグ(友達)!」コールで、一緒にジャンプしながら聴いてたから。
もっと大量のこってりラーメンを食べてるはずの北海道君は、平気な顔だ。
さすが、胃袋もでっかいどう。
そして私たちは、宮城県を賛歌するオリジナルビジュアル系ソングを数十曲、そのうちネタがつきて、宮城の県民歌、さらにはベ●ーランドのCMテーマソングなどなど、宮城君が満足するまで、たっぷり五時間の山頂ライブを拝聴したのでした。
本当に、おつかれさまでした!