麻の縄が手首に食い込む。
縄のささくれが刺さり、それもまた痛い。

アリスは後ろ手に縛られ、猿轡までされていた。


そもそも何故このようなことになったのか。
アリスは思い返していた。






 英知の塔を後にし、アリスとハニーはそこから逃げるようにして去った。

ハニーの魔法で取り敢えずは遠く離れた土地まで来たのだが、そこがどこなのか把握することまではできなかった。
ハニーは自身でも言うのだが“自分の魔術は完成されていない”らしい。

長い年月を経て様々な次元を飛び越えてきたらしいが、どうしても完璧な物は身につかなかったのだと。


しかしアリスにとってそんなことはどうでもよかった。

すぐにでも英知の塔から、キングダムAから離れたかった。
一刻も早く。

それが叶ったのだからそれ以上のことは望まなかった。




アリスとハニーは小さな森のような、木陰のような場所へと辿りついた。
中央には湖がありそこには優しい光が燦々と射している。

アリスは疲れを取ろうと湖へと足を向けた。


「ねえハニー、ちょっと行ってきてもいい?」


「ええ。私もご一緒しましょう。」


二人は湖の淵までやって来た。

アリスは靴を脱ぎ湖の中へと足を入れる。
そう深くは無いらしい。
水はアリスの膝あたりまできており、スカートを持ち上げれば苦にはならない。


「アリス嬢、淵はそれほど深くは無いでしょうがあまり中ほどに行ってはなりませんよ。
きっと深くなっているでしょうから。」


ハニーは手袋を外しながらアリスに忠告した。


「わかってるってば!
ハニーも早く来てよ!すっごく気持ちいいから!」


ハニーはつかの間の休息をとるアリスを眺めて微笑んだ。