「ねぇ、泣かないでよ。」









放課後、図書室の奥で人目をつかないように乱れた制服を雑に直す。

優しい言葉で綺麗な長い白い手が私に伸びた。








「ねぇ、泣かないで」



「こ、来ないで」










からかいが、ヒートアップしたんだ。
『幼児パンツ』を見せろと、何人かの男子がふざけすぎただけ。

私の前にしゃがむ男の子は、それを止めてくれた。









「もう、泣かないでよ。」







震える体が、彼に拒否反応をあからさまに見せる。







「下まで、送るから。落ち着いたら教えて」









そう言って、私から見える範囲で遠くに離れて、背を向ける彼。
知らない人なのに。




きっと、この人も。









「あ、ちょっと」










制服をただし、何も告げることなく図書室を走り出た。

彼の声が聞こえても足を止めなかった。
















「あ、幼児パンツみーっけ」








図書室で私を襲おうとした人たちと出くわしてしまった。

3人組で、1番背の高い男の子が私の肩に手を置いた。








「さっき、邪魔入ったからさ。やり直そか」





怖かった。手も足も、声も出ない。






2度目はないだろう。

勝手に出てきちゃったし。




しっかりと掴まれた肩がその絶望を思い知らせた。







ドガッ…







「触んじゃねぇーよ!」







声は細くて綺麗なのに、力強い。

目の前の男の子が視界から無くなると同時に長い足が前を通った。


そして、爽やかな風と共にさっきの彼がいた。










「汚ぇ手で触るな」







大きな男の子を飛び蹴りした彼はとても怖い目をしていた。

それに怖気づいたのか、3人組は走って逃げてった。









「ケガ、してない?」




また、優しい言葉で綺麗な手を私に伸ばす。







「触んないで」



それを冷たい言葉で離す。









「あぁ。ごめん。気をつける」





彼と目を合わせながら、足を後ろに動かす。

少しずつ離れていく距離。








「あ、ありがとうございました」







お礼を言い捨てて逃げた。

ずっと走って逃げた。





家まで走って



逃げた。