──都内、某所

 深夜の住宅街は、どこか別世界への扉を孕む空気をまとっている。

 春になろうかという青い薫りの背後には、先にあった凍える空の断片が散らばっていた。

 切れかけて点滅を繰り返す街灯はともすれば、何かの影を落とし込み、眠れぬ人の恐怖を具現化していく。

「おい。本当にいるのか」

「要請が来たのですから、何かがいるのは確かでしょう」

 二人の男は、住民に気を遣うように小声で英語を使い何やら話していた。

 何かを探るように男たちはしばらく彷徨(うろつ)いていたがふと、立ち止まる。

「だめだな」

「ええ。これだけ負の気が充満していては、見当もつきません」

 丁寧に答えた男は垂れた目で住宅街を見回し、彼らだけに解る、重々しい空気に顔を歪ませる。