オレはアイツに言われたことを考えていた。
あの後途中で気味が悪くなって逃げ出してしまったが、根が素直なので不審者のアドバイスも真摯に受け止めていた。

そうなると自然と足がB組に向かう。
『伊藤さん呼んでもらえるかな?』

廊下を歩いているB組の生徒を捕まえてお願いする。

『あ、こ、こんにちは』
『こんにちは!あのさ話があってちょっといいかな?』
『え…』
『大輔のこ』
『わわわ分かった!行こう!』

伊藤さんは思っているよりも強い力でグイグイにオレを引っ張りたどり着いたのは中庭だった。

『それで…?』

おそるおそる訪ねてくる。

『あ、あのさ、伊藤さんはなんで大輔のこと好きなのかなって思って』
『……!』
『あ!もうその付き合ってとかそういうんじゃないから!』
『……』
『良かったら教えて貰えないかな?あ!もちろん言いふらしたりしないよ!やっぱりダメ…かな』

伊藤さんは困ったような顔で悩んでいた。
そりゃこんなこと親しくもない、しかも異性に言いたい人なんているわけないよな。

『あぁ…なんか、ごめん』
『助けてくれたの』
『へ?』
『昔、絡まれてた時に』

伊藤さんはポツリポツリと話してくれた。
真面目で優しい子だからなにかとうまく断れないのかもしれない。

どうやら昔、不注意で大学生くらいの人たちとぶつかってしまったらしい。
その時、ぶつかった人がアイスを食べていて服が汚れてしまったのだ。
囲まれて突き飛ばされてクリーニング代3万出せって言われて震えながら鞄から財布を出そうとした伊藤さん。

『お巡りさん、こっちです!こっちでケンカっすー!』
って声が聞こえてきたと思ったら大学生グループが逃げていって、大輔が現れた。

『大丈夫?』

すっかり腰が抜けてしまった伊藤さんを大輔はおぶって家まで送ってくれたんだとか。
アイツがそんなことするなんて全く想像できないが。

その後この学校で再会したとき運命を感じたらしい。
漫画みたいな話だが現実でもこんなことがあるとは。

『クラスが違うから話したりとかは出来ないんだけどずっと目で追いかけてしまって…』
『そっかぁ』
『最初はお礼が言いたくて目で追いかけてたのかなって思ってたんだけど、それにしてはどこにいてもすぐに彼を探してしまっている自分がいて。あの笑顔が私のこと見てくれたらいいなって思ってて』
『ふむふむ』
『いつもおんなじ男の子と一緒に居ることとか足が早いこととか、遠くから見つめるだけでも発見があって、彼のこともっともっと知りたくって』

あんまり伊藤さんのことを知らないオレでも伊藤さんが大輔のことを話しているときは今までとは別人のように感じられた。
表情も柔らかくまるでピンク色のオーラが見えるかのようだった。