『うわ』
『あ、ごめんなさい』

学校近くで珍しく本屋に立ち寄った時に女の子とぶつかってしまった。
長い黒髪がサラリと揺れる。

『あ』
『大丈夫ですか?』
『ああ、はい!』
『すみませんでした』
『こちらこそ』

女の子は頭を下げると去っていった。
電車の中で会う彼女だった。

ん?足元に生徒手帳が落ちていた。
橋本詩織…おそらく彼女のだろう。
A私立は同じ学区内にある私立だった。

そんなことより慌てて彼女、橋本さんを追いかけたがすでに姿は無かった。
仕方ない。どうせまた同じ電車で会うだろうから今度見かけた時に返そう。


そう思っているときほど出会わないもんで、人生とはつくづく思い通りにならない。
こんなに返せないと彼女も困っているんじゃないだろうか…
こんなことなら本屋に預ければ良かった。