10年前、冬。






見渡す限り真っ白な、銀世界。




灰色に包まれた空から降ってくる雪を、暴風が乱れ舞わせる。


吹きすさぶ凍てついた空気と、視界を曇らせる吹雪。




不安定な雪山の中、あたしと“彼”の2人きり。



募っていく不安が的中したかのように、遠くから重厚な音が聞こえてきた。


その音に誘われ、恐る恐る目を向ける。




霞む視界に映ったのは、勢いよくこちらに迫ってくる大量の雪だった。




凶暴な敵と化した雪に、飲み込まれる。


冷たさと痛みと苦しさが同時に襲い、温もりを奪っていった。





『っ!!』


『千果【チカ】……!』




――それが、“彼”があたしの名前を呼んだ最後の瞬間になるだなんて、その時は思いもしなかった。