『分かった。そんなに話したくないならいい。じゃあ』


その場の感情に任せて、電話を切ってしまった。

明らかにいつもと様子が違うくせに、『徹には関係ない』と何も言わない。
何も言ってもらえないままに、暗く沈んだ声を聞かされるこちらの気持ちも分かってほしい。
そんな気持ちから、冷たい声を出してしまった。

それにしても、何かあったことには違いないはず。

俺には言いずらいこと……。

考えたところで全くと言っていいほど何も思い浮かばない。


大学の教科書を手にベッドに寝転がってみたところで、その文字はまったく頭に入らない。
読むことを諦めて顔にその本を載せる。


文子は思っていることを割と正直に話してくれると思う。
最初は口籠っても、いつも最後にはその胸の内を話してくれる。
心を察することが苦手な俺には、いつもそれがありがたかったし、弱い部分や不安なことを打ち明けてくれる文子の姿にいつも可愛いと思っていた。

でも、この日は結局最後まで何も言ってはくれなかった。

それが不安で仕方がない。

文子の考えていることが何も見えないことが怖くて、不安で息苦しくなるのに。


どうしてこんなことをする?


放り投げたスマホを見ても、それは腹が立つほどに静かなまま。


こんな風に言い合いのようになって、その上解決することもなくそのままにしてしまうなんてことは初めてのことかもしれない。


どうしたって意識は文子の方へと向けられてしまう。


不安と、何も言ってくれないことへの少しの苛立ちとで、無駄に寝返りばかりを打った。