「いいお式だったわね」
「プンプン怒ってたくせに」
「あなたが悪いんでしょ？」

写真を見ながら、沖縄のことを思い出す。
キャビネットの前で立ち話をしてもと、橘君とソファに座る。
張り出したお腹が苦しく、足を開き座る。

「茜が綺麗で、ホテルを移動するときのみんなの視線が、嬉しくてもっとみせたかったよ」
「みんなが拍手して、『おめでとう』って言ってくれて」
「うん、感動的だった」
「いいところだけ覚えているのね。都合のいい記憶だこと」
「ああ、毎日ドレスを着せたい」
「……」

呆れてものが言えなかったが、橘君の能天気なところが私を癒した。
結婚を決めるのに、私にはたくさんの時間を要した。
それは橘君が気長に待っていてくれたおかげだ。
私には、けじめが必要で、それには母親と会わなければならなかった。
そのことを橘君に言うと、

「ごめん、俺が先に謝らなきゃいけないんだ」
「どういうこと？」
「黒川のお母さんにあった」
「え！？」

流石にそれはびっくりした。
今、どこにいるのかさえ分からない親を、どうやって見つけたのか。

「そういう専門のところに依頼して、探してもらった」
「つまり、探偵って言うこと？」
「そう」

私に向かって頭を下げ、本当に申し訳ない顔をしている。
許すも許さないもなかった。
余計な気とお金を使わせてしまったという、申し訳なさの方が大きかった。

「ごめんね、こんな境遇で」
「何を言っているんだよ、価値観の相違は結婚していく上で、大切なことだと思ってる。それは付き合っていく中でちゃんと見てきた。黒川はしっかりしていて、大丈夫、任せられると思ってる。それに、何よりも、人の気持ちがわかる優しい人だ」

真摯に向けられる目は、嘘偽りがない。橘君を信じている。ただ、あのろくでもない母親に会って欲しくなかっただけなのだ。

「何か話したの？」
「俺、最低な人間かもしれないけれど、こうするしかなかったし、黒川に負い目を感じながら、結婚をしてほしくなかったんだ。だから……」

橘君は胡坐をかいて座っていたのに、急に正座になった。
そして、頭を床に付けて、土下座をした。

「ちょ、ちょっとどうしたの？」

急なことに慌てたが、橘君は顔を上げなかった。

「もう黒川の前に二度と現れないでほしい。俺が幸せにするからって。それで……」
「それで？」

問いかけるような感じではないようにして、優しく聞く。

「お金を渡した」
「お金！？」