「あれー?恋愛チャンいないなあ……」
人の波をすり抜け、俺は遠くを見つめた。
何か、暗闇に消えた気がするんだけどな……。
木の影に来てみたが、やはり彼女の姿はない。
見逃しかな?
頬をかいて、木が生い茂る雑樹林を後にした。
そこで、男女のヒソヒソ声が聞こえた。
誰?
こんな所で、やめてほしいんだけど……
そう思いつつも、気になるのは好奇心が勝ってしまうから。
木の影から、覗きこむ。
うわあ、俺こんな趣味ないんだけどな……
「ちょ、やめてっ……こんな所でっ」
『イイじゃん、そのつもりで来たくせに』
「違っ、暑かったから……//もお、離してよっ!」
おいおい、あれって無理強いじゃないの?
駄目だなあ、女の子は大切に扱わないと……
顔はよく見えない。
助けた方が、良いのかな?
誠名は、軽く息を吐く。
歩み出したその足は、次の瞬間、踏み止まる。
『イイじゃん、それともホテルならいいの?“恋愛ちゃん”?』
「っ……!!」
思わず、息を漏らす。
まさか、遭遇するなんてね……
俺は自嘲を含んで、笑った。
ほーんと、運命感じちゃうよ。
恋愛チャンは、男の言葉に頷くと半ば強引に腕を引かれる。
「っ……」
戸惑いに揺れる彼女の瞳。
はあ……。
何でだよ。
こんなの、見慣れてるはずだろ。
何でこんなに
胸が痛いんだろう───
───パシッ
「……っ!?」
『……?』
気づけば、彼女の細い腕を掴んでいた。
相手の男が、眉をひそめる。
が、そんなの眼中にはない。
恋愛チャンの腕は、震えていた。
「……誠、名?なんで、ここに……」
「こんばんは、恋愛チャン♪」
彼女の問いかけを無視して、俺は彼女を自分の腕の中に引き寄せる。
一瞬動揺を見せた彼女だが、このピリピリした空気の中で抵抗を見せる余裕はないようだ。
『は?……つか、アンタ誰?』
「お取り込み中、ごめんね?
それにしても恋愛チャン俺がいるのに浮気?」
「は?あんたと付き合った覚えないけど?」
笑顔で返せば、ドスのきいた声で反論が返る。
男はそんな様子に、呆気にとられたようだ。
あはは、恋愛チャンいつに増して尖ってるなあ
クスッと笑えば、「なに笑ってんのよ」と鋭い目つきで睨まれる。
「あーあ、そんな顔したらせっかく可愛い顔が、台無しだよ?」
「はあ?……てか、腕重いっ!!」
「えー?だって恋愛チャン小さいから乗っけやすいんだもん……『だから!!』
男によって、甘い空気(?)が壊される。
てか、こいつ誰?
男は、恋愛チャンの腕を掴むと俺から引き離そうとする。
強引に掴まれた腕に彼女は、小さく悲鳴をあげた。
その光景を見て、静かに怒りが沸いた。
『ほら、行──「離せよ」っ、はあ?』
男の腕を掴んで、彼女の体を再び腕の中に収める。
男は不服そうに、俺を睨む。
「この子、俺のなんで♪」
『はあ!?……ふざけ──「うるさいなあ」
男の言葉を遮り、ため息をつきながら彼を見据えた。
心は、ひどく冷静だった。
「部外者は、黙っててよ」
『っ!!』
冷たく笑い返せば、男は後ずさる。
そんな男の動作に、思わず笑ってしまう。
『な、何笑って……』
「まあ、今回は許してアゲル♪」
『は、はあっ!?』
「───でも、次また彼女に近付いたら」
俺は、顔から笑みを消した。
そして、男の体を指先で軽く押す。
「社会的に抹殺しちゃうかもー♪」
『ヒッ……!!』
「なーんてね♪」
そう言って笑い返すと、男は足早に逃げていく。
俺はその様子を、ただ見つめていた。
「……誠名……」
「ん?」
「その……あの、さ……」
拙い言葉で喋る彼女。
もしかして、照れてる?
……そんな都合のいいわけないか。
彼女は、ようやく顔をあげると。
照れくさそうに、自身の肩を抱いた。
「あり……がとう///」
「───え。」
意外な言葉に、思わず拍子抜けをする。
彼女は、すぐに顔を反らす。
「今、何て?」
「〜〜っ、うるさい!!///」
あーあ。
耳まで真っ赤。
林檎みたいだな。
「……大体、誠名は──」
彼女の赤い耳に触れる。
ビクッと、体を震わる彼女。
そのまま、彼女の無防備な耳に甘く噛み付く。
「っ、誠名!?///」
「あ、可愛いくてつい」
数秒後に、ラリアットをおみまいされた。
咳き込みながら、地べたに倒れたままの俺。
そんな、俺の前に手が差し出される。
「ほら、掴まって」
「ありがとう」
そう言って彼女の、手に掴まる。
手が触れる
それだけの事なのに。
俺の心音は、上がっていた。
彼女は、俺の腕を引いた。
「誠名のせいで、男の子いなくなっちゃったじゃん」
「えー、俺のせいなの?」
唇を尖らせて、文句を言えばいつも返ってくるはずの反論。
今は、無かった。
代わりに返ってきたのは、
「……だから、責任とって、一緒に花火見てよね」
「いいの?」
「は?何で駄目なの?w」
彼女が、笑う。
────あ。
笑い顔、初めて見たな。
てか、今までずっと気づかなかった。
俺、いつの間に───
「な、何いきなり黙って……」
「可愛いな、と」
「ハイハイ、そーです」
「ひどーい、俺本気なんだけど?」
再び、笑い声が聞こえた。
ふくれっ面もいいけど、やっぱり笑顔が一番破壊力ある。
「嘘ー、ありがと、誠名」
「っ!!///」
あーあ。
ダメだな、俺。
やばい、今更気づいた。
俺こんなに彼女が───
────好きなんだ
「よしっ!屋台全制覇だ!!」
「恋愛チャン、お腹壊すよー?」