てなわけで。
「ねえ、無理だって」
零涙が、蓮華の腕を強く掴みながらそう抗議した。
零涙は、引き止めたいのだが、蓮華、誠名はやる気のようだ。
零涙は、ため息をついた。
零涙は思う。
(これ完全なる、ストーカーだから)
そう、彼らはあの4人を尾行していた。
なんのため?
そんなの分からない。
が、蓮華の合言葉。
いやお前が分からねえよ、ナルシ!!……と言いたいところだが、読者の皆さん。
どうか大目に見てやってください。
彼はこういう人間です。
「はあ……堂々と行かないのは俺のアイデンティティに反するんだけど?」
不服そうに誠名は、蓮華を見つめる。
蓮華は、うるさい気づかれる!、と声を荒らげた。
いやお前が1番うるせーんだよ!!……と言いたい読者さん。
もう一度言います。
彼はこういう人間です。
「はあ……それにしても、俺達さあ……」
誠名は、周りを見渡す。
周りには、何故か人(特に若い女)が集まってきている。
気のせいだろうか。
誠名は、いやいや蓮華じゃあるまいし、自惚れなんて……と思うがあまりにも多いので。
試しに誠名お得意キラキラスマイルで、手を振る。
「キャアアア!!///」
「……!?」
1人の女が、悲鳴をあげて倒れた。
誠名は、そこで確信する。
(やっぱり俺達……)
「すっごい、目立ってる!!」
そう言うと、周りの女子の声が大きくなる。
これでは尾行どころではない、と蓮華に伝えるが蓮華は、は?と言うばかり。
(腹立つな、こいつ(怒))
ふつふつと湧き上がる怒りをおさえて、誠名はため息をつく。
『きゃあー、すっごいイケメン///』
『モデルさんかな?』
『てかあの人達見たことある!!///』
『財閥の御曹司でしょー?///』
周りから聞こえてくる声が、次第に大きくなる。
零涙は、顔をしかめ耳を塞いだ。
「うるっさ……だから、女は嫌なんだよ……」
「どうでもいいが、蓮華。あいつら腰に手を回されているぞ。」
由弦の言葉に、一瞬遅れて蓮華が「何ィ!?」と声を荒らげる。
だから、うるさいっつーの……と、零涙に睨まれるが今の蓮華にはそんなことは目に入らない。
蓮華は、彼女達の方向を見た。
彼女達の腰に巻き付く、男の腕。
「あいつら……俺のもんに触りやがって!」
「いやまず、蓮華のものではないんだけどね」
誠名が、蓮華の肩を叩いてそう言う。
でもさすがの誠名でも、少し違和感を抱いていた。
どんなにフレンドリーなやつの場合でも、初対面の女の腰に手を回すだろうか?
その違和感は、由弦の言葉によってハッキリする。
「あ、キスされた」
その言葉に、蓮華の何かが反応した。
髪は逆立ち、さらには恐ろしい気を放って、オレンジ色の戦闘服を身につけ、極めつけに
「オッス、オラ、蓮……「ツッコミきれるカアアア!!」」
蓮華が、誠名のラリアットにて後方に倒れる。
ズザザザ!!と、地面にめり込む音がして蓮華は倒れた。
ちょっと、ふざけすぎだよ。
零涙が、座り込んで蓮華の肩を叩いてそう呟いた。
「大袈裟すぎるよ〜ほっぺだし」
「頬だろうが、それはキスだ!!キスのうちに入る!!」
再び涙目になろうとした蓮華に、零涙はもう慰める気力をなくして立ち上がる。
零涙は、持参のオペラグラスを覗き込んだ。
「──あ。蓮華〜」
「……な、なんだよ…」
話しかけんな、というオーラを醸し出すが、零涙はお構い無しに言葉を並べた。
「あの4人、別行動しだしたよー」
「別行動?」
目を凝らして、4人の行方を見ると男女は、すでにペアを作っており別行動に移ろうとしていた。
(ま、マジで?)
蓮華の思考が、珍しく冴え出す。
(別行動=進展ある=結婚!?)
「いや、結婚て!……馬鹿でしょ、やっぱ蓮華」
誠名が、呆れながら両手を宙に広げた。
蓮華は、察した。
このままじゃ、多分、ダメだ。
ひどく曖昧な考えだが、本能的に彼は口走っていた。
「俺、ちょっとあのツンデレ女のとこ行くわ」
ツンデレ女……とは、恐らく涼香の事だろう。
3人は、一瞬目を点にさせるが、蓮華は皆の反応を待つ前に足早に行ってしまう。
零涙は、不機嫌そうに眉をひそませる。
が、誠名はそんな蓮華の後ろ姿を見て柔らかく微笑んだ。
(あんな蓮華……始めて見た……)
誠名は、周りを気にせず伸びをすると歩き出す。
「え?誠名、どこ行くの〜?」
「んー?俺も、恋愛チャンのとこ行こうかなって」
零涙は、さらに不機嫌になる。
誠名は、そんな零涙の頭を撫でると「じゃーねっ♪」と再び歩み出した。
残された、2人はただ呆然と立ち尽くす。
零涙は、由弦を連れて帰ろうとする。
だが、由弦は静かに呟いた。
「……俺は、」
「……ゆーくん?」
零涙は、不思議そうに由弦を見た。
ゆーくん、とは零涙が使う由弦の愛称だ。
他の2人は名前で呼ぶ零涙だが、由弦とは小さい頃から親同士の親交が深いためあだ名があるのだろう。
そんな由弦は、ふとある日の言葉を思い出していた。
【最低】
そう、気に入らない女。
強気そうな瞳を思い出す頃には、由弦もまた歩き出していた。
その様子に、零涙は、ありえないという顔で由弦の背中を見つめた。
(何?皆、洗脳でもされてんの?)
そんな考えが浮かぶほど、気が動転していたのだ。
ともかく、1人残された彼は、そのまま帰るわけにも行かず訝しげに人の波を見つめていた。
そして、もう何度目かになろう、ため息をついて彼もまた歩き出した。
「……僕は、消去法で、あの子……か」
1番、苦手なのに──
そう心に呟いて、零涙は先程よりも深いため息をついた。
そんな彼らの様子を、頭上の月は静かに見下ろしていた。