マンションのエントランスから駅までは徒歩5分。



エレベーターをなぜか無性に怖がる葵を連れて、仕方ないから35階から1階まで階段で降りるのは、めんどくさいなんてもんじゃない。

俺1人だったらすぐ下に着いただろうに、なんだって階段を下りているんだろう。


普段利用者があまりいないせいか、階段に通じる扉を開いて中に入ると、そこは異様なまでに静まり返っていて、少し不気味だった。

クーラーの効きが悪いのか、じっとしているのならともかく動いていると暑い。

今度、管理人に言っておこう。


タンタンタン、2人分の足音が反響する。
その音をBGMに、俺はぼんやりと「帰ってくるときは、どーしたらいいんだ?」なんて考えていた。


35階分も歩いて上がるのかよ。マジ?

絶対無理。無理無理無理!



ああ、考えるのは止めよう。
頭痛くなる。




「ちょっと、急ご!」

「わわ、わ…」


うわーん、遅いよ葵。

や、特別遅いわけでもないけど、もっと全速力で、いっと飛び降りるくらいの勢いじゃないと間に合わなくなっちまう。