そのあと、何となく家には帰りたくなくて蘭の家に寄った。


織田さんの話を聞いて、こんなにモヤモヤするのはなんでだろう。


どうしてこんなに苦しいんだろう。


自分で自分の気持ちがよくわからない。


同情しているわけじゃない。


織田さんに感情移入したわけでもない。


それなのに、なんでこんなに気になるの?


武富君の寂しそうな顔が頭から離れないの?



「なるほど。要するに武富君は、織田さんが速水君のことを好きだと勘違いしてるんだよね?だけど実際は2人は両想いで。いーい?咲彩!それはチャンスよ?」



部屋着でベッドに腰掛ける蘭が、床のラグマットの上に座る私に言う。



「チャンス……?」



「そう、またとないチャンス。両想いだけど、武富君はそれを知らないまま別れたんでしょ?しかも織田さんは、自分をかばったせいでサッカーを辞めざるをえなくなった武富君から逃げ出した」



「……うん」



「武富君は今、どん底にいるわけじゃん。いーい?弱ってるところを落とすの。傷心につけこんで優しくすれば、そこから恋に発展することだってあるんだから」



蘭が満面の笑みを浮かべる。


傷心につけこむって……。