麻紀と別れて、要くんのアパートの前。

 

「はあ…」


 
ため息混じりの息を吐き出して、二階の窓を見上げる私。



「あれ? 暗い?」


 
部屋の灯りは点いていなかった。

 
もしかして、出てってくれた?

 
 
ひそかに期待しつつ階段を上がるけれど、そこは油断大敵。

 
扉を開いたら、またバスタオル一丁の姿で登場!

 
…なんてことも十分ありうる。

 
 
わざと部屋の電気を消しておいて、暗闇から「おりゃーっ」と飛びついてくるかもしれないしっ。

 
今度こそ、本気で襲われるかもしれない。

 
 
麻紀に変な情報を与えられてしまったものだから、そんなヘンテコな想像しかできなくなってて。

 
私は慎重にドアノブに手をかけた。

 
 
あれ? 閉まってる。

 
ホントに居ない?

 
鍵を差し込んで、ゆっくりノブを回して、そろりと中に入る。



「も、もしもーし…誰もいませんかぁ…」


 
あーーっもう。 

 
なんで私がこんなコソ泥みたいな侵入方法をとらなきゃならないの。

 
 
玄関の明かりをつけて、抜き足差し足で部屋にむかう。

 
 
パチ…

 
 
 
電気をつけると眩しくて、私はぎゅっと目を閉じた。

 
そっとまぶたを開いて、辺りを見回してみる。

 
 
人の気配なし。物音もなし。

 
念のため、バスルームとベッドも確認してみたけれど、どうやら、流川は本当に留守みたいだった。



「はあ…やれやれ」


 
気が抜けて、どっかりとソファに腰をおろして、少しむくんだふくらはぎをさすった。

 
ふと時計を見ると、九時になろうとしてて。

 
洋画でも見ようかな、とリモコンに手を伸ばしたときにベランダのカーテンが開いていることに気がついた。

 

「ん?」


 
目を凝らすと、外に洗濯物がぶら下がっているのが見える。



「あれ? 私、今日洗濯なんてしてないけど…」