バイトが終わって、午後6時。

 
私と麻紀は、駅前のイタリア料理店へ向かった。

 
 
そのお店の雰囲気はとってもカジュアルで、ぜんぜん片肘張らずくつろげる。

 
バイト帰りの私と麻紀の、すっかり行きつけになっているお店で。

 
 
日中は明るい日差しが差し込んでいるけれど、夕方過ぎからはオレンジ色の光に包まれて、落ち着いたダイニングバーっぽく変身する。

 
そんなところがお気に入り。

 
もちろん、パスタも最高級に美味しい。



「でさ、さっきの続きだけど」


 
トマトとオリーブのたっぷり乗ったパスタをフォークに絡めながら、麻紀は興味津々な顔つきだ。



「その男、要くんの友達って言ったんだよね?」


「うん。そうみたい。友達っていうか、知り合い程度みたいなこと言ってたけど」


 
私は深めの皿の中で泳ぐシーフードのスープスパをかき混ぜながら軽くため息をついて麻紀を見上げた。



「同じ大学でしょ? 名前は?」


「え~と、流川直人。流れる川に、真っ直ぐな人」


「流れる川に、真っ直ぐな人…流川、直人…?」


 
パスタを含んだ口をもぐもぐと動かす麻紀。


口の周り、すんごいことになってますよ、あなた。

 
キレイな顔して、そういうところ、無頓着なんだよね、この人。

 
わざと塗りたくった口紅みたいに広範囲に真っ赤ですよ。



「う~ん…流川直人……なんだかどっかで聞いたことあるような名前なんだよね」


 
真っ赤なタラコ唇のまま、頬杖をついて考えこむ麻紀。

 
私は、パスタをぐにぐにとかき混ぜながら、

 
そんな麻紀の横顔を見つめていたのだけれど。


 
麻紀の目がぱっと大きくなったと思った、

 
次の瞬間。