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窓に預けた左肩がブラウス越しにひんやりとした。

私は右手で箸をそっとつまんだまま、視線を窓の外へと放っている。

ずっと向こうに見える不揃いな山々の連なり。

抹茶をふんわりとふりかけたような山々は、寝ぼけたみたいな鈍い色をしている。

耳元で、窓枠が重げに軋む。

気が乗らなくて、瞼をふせる。

あんなことがあった翌日なのだから……。

それでも私は微かに瞼を押し上げて、山の上空を盗み見た。

雨も降らないのにはっきりとしない空の色。

空までそっくりな色をしなくたっていいじゃない。

私の目の前で風にはためいた、あの薄灰色。

何者なのかもわからない、なにひとつ教えてくれなかった、不思議な彼の着物の色とそっくり同じ色。

黒い翼が脳裏にちらつく。