* * *


 私は体を丸めて、黙って堪えているしかなかった。

 小突き回され、デッキブラシで押さえ付けられ、汚物入れを頭の上でひっくり返される。


「あははっ、きったなぁ〜い!」


 お腹を抱えて笑われる。


「やだあ、かわいそうだよぉ」

「じゃあー、綺麗にしてあげる!」


 私は呆然と座り込んで、掃除用バケツに水が汲まれるのを眺めていた。

 楽しいんだ。

 楽しんでいるんだ。

 その場の雰囲気に流されて、楽しまなきゃいけないような空気に、私を虐めて楽しんでる。

 冷静じゃない。

 水を浴びせかけられることよりも、歯止めがきかなくなりそうなそれが恐ろしい。


「篠塚ー!」


 トイレの外から聞こえてきた声に、バケツを運ぶ先輩たちも、私の体の震えも、止まった。

 稲葉の声だ。

 トイレの外からかすかに聞こえたその声に、私は泣きそうになる。

 私のこと、探しにきてくれたんだ。