「ごしゃがねでけれなァ(怒らないでね)。」
 ぱたり、ぱたり。
 すでに陽の落ちかかった校舎の廊下を、俯いたままの憲治と「少女」が歩く。
 ぱたり、ぱたり。
 憲治の返答がない。
 微かな蛍光灯の唸りが聞こえる。グラウンドに面した一階の北校舎の廊下。野球部員の、帰り支度をする声が聞こえる。音楽室の方では、吹奏楽部が最後の音合わせをしている。このまま歩き続ければ、その先には体育館。
 西の山影が、微かに残った暮色に浮かぶ。
 憲治は黙したまま歩く。