ぱたり、ぱたり。
 ビニルのスリッパが、リノリウムの廊下を叩く音が響く。誰もいない中央廊下の床の上に、西側の窓から差し込む陽がのろのろと這って行く。
 所々開いた西側の窓から、傾いた陽光とともに夏風が吹き込んでくる。中央廊下は風の回廊と化し、稲穂の碧が薫る。
 ぱたり、ぱたり。
 憲治は風の回廊を行く。と、憲治の背後から、どう、と一陣の旋風が追い越していった。
『…彼女、だ?』
 先回りされた。そんな気がした憲治は、その風を追って走り出した。風が吹くと、何故か「あの少女」を感じる。理由は解からない。ただそう思うのだ。