「綺麗」


ぽつり、と自然に言葉がこぼれ出た。


大広間より聞こえる音楽よりさらに遠くから、1時を知らせる鐘が聞こえた。

まだ、このパーティーが始まって1時間しか経っていないとは、と恵理夜は苦笑した。


同時に、自分が日常から離れられていないことに辟易した。

どこかで、この非日常空間に溶け込むのを拒絶していて警戒していまう。


「物事を楽しむって、こんなに難しいことだったかしら」


誰に言うでもない、呟き。

そして、美しい薔薇のアーチくぐりを垣根を曲がろうとしたとき。


――どん、と強い衝撃が体を襲い、バランスを取ろうとして薔薇のアーチを掴んでしまった。