「部屋まで送るよ」


「ううん。大丈夫。いいよ、ここで」
 シュン君の親切を、あたしは首を横に振って断った。


 これ以上シュン君と居たらあたしの心臓がもたない。


「そっか……」

 シュン君は、まるで捨て犬のような顔をしていて、ほんの少し、あたしの良心が痛む。


「あとで電話していい?」

 その捨て犬の表情で小首を傾げ、あたしをじっと見つめてくる。


「うん」

 また顔が熱くなるのを感じて、あたしは頷くことで隠そうとした。


「それじゃあ、ね。送ってくれてありがとう」

 そうやって誤魔化すようにあたしは言った。


「あ、うん。じゃ…またな」

 シュン君の声が寂しそうに聞こえたのは、多分あたしの気のせいだ。


 あたしは、逃げるようにコーポの中に入っていった。


 階段で二階まで上がっていったら、自然とため息が出た。

 結局、何もなかったけど……むしろほとんど初対面のわりに話せてたのってどうなの?


 でも……あのシュン君って人は、結構喋りやすいってことが分かった。


 全然悪い人じゃないってことも……


 それに、こういうふうに言ったら自意識過剰なのかもしれないけど、シュン君があたしに……好意を持ってくれてるのは、物凄く伝わってきた。


 昨日の今日で何で? とは思う。

 あたしは昨日のことを覚えてないからよく分からないけど、でもかなり酷い状態だったはずなのに、そんな女に好意を持つなんて、どれだけ物好きなんだろう。


 あたしはもう一度大きなため息をついた。


 何にしても、これから大丈夫なのかな……