「ねぇ……名前、なんていうの?」


 一瞬何を聞かれたか、分からなかった。


「え……」


「あなたの名前……何?」


「え……あ……旬。沖田旬」

 自分の名前を言うだけなのに、どもってしまった。


 俺の名前を聞くと、彼女再び、微笑んで、


「そう……旬……」

 そう言って、俺の頬を撫でた。


「旬が…あたしの彼氏だったらよかったのになぁ……」


 ポツリと呟いたその言葉に、胸の奥がぎゅうっと締め付けられた。


「あっ……あなたは……」

 ちゃんとした言葉で、彼女の名前を聞き返したいのに、もどかしいぐらいに、上手く話すことができない。


 でも、彼女は分かってくれたみたいで、ゆっくりと口を開く。


「あたしはね……ナツミ」

 彼女の目が段々とトロンとしてきて、声も小さかった。


 だけど俺は、聞き逃さなかった。


「ナツミさん……」


「ん………」

 ナツミさんは、返事をしてくれたかどうか微妙な声を出して、目を閉じてしまった。

 俺の頬からもするりと手が滑って落ちた。


「ナツミさん?」


 返ってきたのは、ゆっくりとした寝息だった。表情も無防備なほどに優しくて穏やかだった。



 ヤバい……


 気付けば俺は、目の前のこの彼女に、恋に落ちてしまっていた。