「このまま凪の国へ行く。」

臣下はビキを船の柱に括り、凪の國へと連れ出された。凪の國は日帰り出来る距離に有る。

常に目隠しをされて、國に着いてからも樽に押し込まれて馬車に積まれた。


「お前はナタリヤだ……」

赤い鬘を被され、ビキは粉をはたかれて化粧をさせられた。
豪奢なドレスとパンプスを与えられる。
王子付きの臣下にナタリヤと名前を呼ばれて、綴りを書かれた紙を見せられた。


鳥篭の形状の檻に詰められ、馬車に積まれて城内へと運ばれた。


「ナタリヤ!」

謁見の間では王が玉座から降り立ってまるで子供のように王子の元へ駆け寄ってきた。
ぶくぶくと恰幅の良い男が凪の王らしい。


「マギオ……久しぶりですね。」

王子は凪の玉座に堂々と座り込む。


「お母様も。」

凪の王が王子をそう呼ぶと、この國が壊れているのだと気付いた。


「マギオ……お土産、ナタリアにそっくりな鳥。」

手を叩いて、凪の王は喜んだ。


「お母様、有難う!」

凪の王は詳しくは知らないが伝統文化を重んじ、両親に対し敬意をはらう國である。
ビキが、王子に置いていかれることは歴然だった。喉の渇きはいつまで堪えられるのか、不安が募る。

奇妙な王との生活が始まった。
王はまるでビキを人形のように扱う。
髪を梳かし、豪奢な服を着させて、紅を塗った。
そして城内を檻に入れたまま連れ回した。
秘め事にまでビキを連れては醜態を見せ付けて来るのだ、数日間もままごとに付き合わされ、流石にビキも精神的に滅入ってきた。