扉を開ければ軋むことから、古い物であることがわかる。

その部屋の主は、逆光でわからない。

『…何か用か』

言葉を発したのは、
靈羅灑梛。
若くして暗殺部隊に所属し、いままで数々の手柄を立ててきた、16歳の少女である。

「あぁ、灑梛ちゃん。
いらっしゃい」

今のは灑梛の父であり、総領でもある、靈羅高麗。

『――用件は、何だ』
「せっかちだねぇ。わかってるんだろ?任務だよ。」
『それは知っている。私が訊いているのは、内容だ。』

灑梛は、恐ろしい程の無表情で、淡々と言葉を発する。

「はは。知ってるよ。口で言うより、資料の方が速いって思ってね…」
そこで言葉を切り、机の引き出しから茶封筒を取り出し、パタパタと振って見せる。
灑梛はその茶封筒を奪い取った。

『資料?そんなにややこしい奴なのか?』
「いーや。簡単だよ、何せ下っ端だからね。
まぁ、部屋でじっくり見てごらん」
『――心得た。』

そうして総領室を出ようとした灑梛を、高麗が呼び止める。

「待って、灑梛ちゃん」
『…なんだ、まだなにかあるのか?』
「最後は…分かってるね?」

ふぅと息をつき、目を伏せる灑梛。
そして静かに目を開き、透き通った紅い瞳でしっかりと父を捉えた。

『――――案ずるな。


〝せめて最期は美しく〟


だろ?言われなくても分かってる。』

そうして灑梛は今度こそ、総領室を出た。