真夜中に夢を見た。

お兄ちゃんが暗い海の底から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

私は海に飛び込んで、5歳くらいの小さなお兄ちゃんを抱き締めた。

もう大丈夫だよって言って、お兄ちゃんの頭を胸の中でぎゅっと抱き締める。

このフワフワの髪が好き。
昔から癖っ毛だよね、お兄ちゃん。

私の腕の中の小さな小さなお兄ちゃんが可愛い。

でもそのお兄ちゃんが顔を上げると、今の……大学生のお兄ちゃんになってる。

「お兄ちゃん、大好き」
「……俺がどんな男でも、何をしても好きか?」
「うん、好き」
「これから何が起こっても全てを許してくれる?」
「……うん」

いつの間にか、私の方が大きなお兄ちゃんに抱き締められてる。

あったかい。
さっきまで暗い海の底だったはずなのに……

お兄ちゃんの体が熱を帯びる。
私を抱き締めている腕にも力がこもって息が出来ない。

お兄ちゃんは体を起こすと、両手で私の頬をそっと包んだ。

「だって、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだもん」

そう呟くと、悲しそうに微笑むお兄ちゃんの腕の中で再び眠りに落ちた。

* * *

翌朝、目覚めるとお兄ちゃんの顔が直ぐ目の前にあった。

長いまつ毛に指を当てるとお兄ちゃんの目がパチッと開いた。

「お兄ちゃん、おはよう」
「おはよう」

おでこを合わせながらの朝の挨拶。

小さい頃、良くしていた挨拶にほっぺがくすぐったくなる。

「お前、熱は?」

お兄ちゃんが私の頭に手を当てる。

「まだ、ちょっと熱いな」
「でも昨日よりだいぶいいよ」
「無理すんな。少し延長するか」
「延長?」

お兄ちゃんは受話器を持つと、何かを相手と話していた。

「学校にも休むって連絡を入れておくよ。昼前までに出ればいいから、お前はもう少し休め」

お兄ちゃんはお風呂場に行って服を着替えると、朝食を買って来ると言ってそのまま出て行ってしまった。