そのどれかが好きになった理由かとも思うが、ではどれかと言うと、亮介自身、どれも決め手に欠ける気がする。

では、それらの全てか?

いや、それは違う。なぜなら、小枝子の事を殆ど何も知らない時から、亮介は小枝子に惹かれていたのだから。

そう。亮介は出会ったその日の内に、小枝子を好きになっていた。

翌朝のベッドで、裸の小枝子の慌てた様子を思い出すと、ひとりでに頬が緩む亮介だった。

「何よ、にやけちゃって、気持ち悪い。小枝子さんのどこに惚れたのよ?」

普通に見れば怒った顔の倫子だが、実際には今にも泣き出しそうな事を、付き合いの長い亮介はすぐに気付いた。

「俺にも解らないんだよ。でもさ、人を好きになるのに、理由なんかないんじゃないのか?」