「でも、あ…ん…」

言いかけた私の口は、亮介さんの柔らかい唇で塞がれてしまった。
久し振りの甘いキスに、私の気は遠くなって行く……

「でも、何だい?」

「……忘れちゃった」

「どっちみち、おまえに拒否権はないけどな」

「そうみたいね」

私は嬉しさで涙が込み上げ、亮介さんの逞しい胸に顔を埋めた。そんな私を、亮介さんはぎゅーっと抱きしめてくれた。


イヴの奇跡だわ……


その時、私の肩をポンポンと誰かが叩いた。

「小枝子、お取り込み中に悪いんだけど、体が冷えるから中に入りなさい。今が大事な時期なんだから…」

「うん」

「ちょっと、小枝子。大事な時期って何の事だ?
あ、お義母さんですか? はじめまして。私は…」

「はじめまして。とにかく小枝子の体が心配だから、中にお入りになって?」

「はあ、では…」

亮介さんは私を庇うように肩を抱き、「なあ、何の事だよ?」と耳元で囁いた。

「あのね、私のお腹の中に……」

その後、亮介さんの叫び声が辺りに木霊した。そんな、クリスマスイブの夜だった。


(完)

※よろしかったら番外編もお読みください。