「美緒はこのところ風邪気味なんだよ。だからなるべく外に出ないように言ってあるんだ」

「そうなんですか…」

「ちょっと電話してみるかな。少しいいかい?」

「いいですよ。どうぞ掛けてあげてください」

私は再び椅子に腰を掛けた。

マスターはすぐに携帯を取り出し、ボタン操作をして耳にあてたが、いつまで経っても無言のまま、やがて溜息と共にパチンと携帯を畳んでしまった。

「どうしたんですか?」

「美緒が電話に出ないんだよ」

マスターの辛そうな表情から、美緒ちゃんを心配する気持ちが伝わってくる。もちろん私も心配になって来た。

「店を閉めて帰るとするかな…」

店の閉店時刻まで、まだ2時間ほどあった。お客様は今もいて、チラホラだけど来てくれる。

「私が様子を見に行きますよ」

何のためらいもなく私はそう言っていた。