遅刻してぇのか。



漫画でよく見る怒りマークを頭に浮かべながら付け足し言う零があたしに早く乗れと促す乗り物は二人乗りが出来る自転車。しかもあたしのやつ。



いつもバイクで学園まで行っていた零が自転車。



何で?そう思ったけど、多分、いや絶対バイクの後ろに乗るのが苦手なあたしのことを考えて、零は自転車で学園まで行こうとしてくれているに違いない。



ちょっと。パパとママの言っていたことが分かったかも。



自転車に跨がる零を見て、久しぶりに兄貴らしさを感じたあたしはえへへ。と笑顔が零れる。



「…なに笑ってんだきもい。早くしろって。」

『ほいほーい。素早さなら天下一品。』

「…。」

『何?』

「…次ふざけたこと言ったら漕いでる途中で振り落とすから。」

『……うぃーっす。』



自転車の後ろの荷台に跨がったあたしに零は前から振り向いてギロリ。切れ長の瞳を鋭く尖らせ凄む。



まったく。シャレというものを知らないなこの兄貴は。



なんて思っても零だったらほんとに実行しそうなので適当に返事をしながら心の中でもう(今は)ふざけないと誓うあたし。



前に座る零の腰に腕を回してしっかり掴まり、ペダルを踏んで出発した自転車は天美学園へと急いだのだった。



あたし、深城雫(ミシロ シズク)。今日から高校1年生です。