リビングのドアを開けられずに佇むあたし。



颯太兄、東京に行くなんて言ってなかったよね?


卒業式まで後何週間もないじゃん。



なんで、言ってくれないの?




ドアから手を離して背を向けた時


「蜜柑?」



大好きな人の声がした。


いつもなら、笑顔で振り向くあたしだけど



この時だけ、笑顔なんて作れなかった。


「颯太兄、久しぶり」

「久しぶりって、お前…。なんかあった?」



あったよ、



すごい、ガッカリすることが



今さっきあったよ。



「別に?疲れただけ、バスケの練習がハードでさ」

「お前頑張ってるもんなぁ」


颯太兄はわしわしとあたしの髪を撫でる。


昔からその癖だけは変わってない。



もう、この手の温もりを感じることなんて出来ないんだね、颯太兄。