「狂言誘拐を仕組んだのは間違いないだろう。しかし、鳥海広義を殺してはいない」

達郎はあたしに、広義の部屋の写真を出すように言った。

「多くの証言にあるように、広義の部屋は明るく清潔に保たれていた。それは一朝一夕で出来ることじゃない」

確かにそうだ。

長い間、息子夫婦が父親に愛情を注いでいたから出来たことだ。

「それ故に、あの夫婦が鳥海広義を殺害したとは考えにくい」

達郎はあたしから受け取った写真を見ながら言った。

「じゃあ、鳥海広義を殺したのは誰なの?」

「広義は殺されたんじゃない。自殺したんだ」

「自殺!?」

「だから広義の遺体には他殺を示す吉川線がなかったんだ」

「ちょっと待って、広義は寝たきりの人間だったのよ?」

「だが寝返りもうてたし、腕を使って起き上がることもできた。それならこのタンスの取手に浴衣の帯を結んで、首を吊ることは可能だ」

そう言って達郎は、写真に写っていた和箪笥を指で弾いた。