小さな六畳一間のアパートで、バースデーケーキもなく、豪華な飾りつけもない。


 けれど、ここで迎える3年目の誕生日だった。


 特別なものは何一つないけれど、何もない日常が奈々子にとっても冬我にとっても、一番大切なものだった。


 当たり前の生活を、当たり前に手に入れることができなかった幼少期。


 親という存在にどれほど恋焦がれても、その存在がどんなものかもわからないから、想像することさえできなかった。


 浮かんでは消え、浮かんでは消える「家族」の想像図。


 その想像は虚しいほどに薄っぺらく、悲しいくらい幼かった。