「じゃあ蒼以、また明日」
「うん、バイバイ」
手を振って見送れば、女一人の男二人という組み合わせ。
「帰りにさ、100円ショップ寄っていい?」
まだ少し騒がしい教室の中で話すと、二人は顔を見合わせた。
「分かったー」
と言って携帯を取り出し、電話をかける拓真。
それを横目に和也はあたしに問う。
「買いたいもんでもあんの?」
「だって来週修学旅行じゃん」
「げ、忘れてた」
うわー、と言う和也を見て笑う。
「マグカップ。買おうと思って」
財布の中をチェックすると、六人分買えるだけの余裕はあった。
「・・・千円」
その声が聞こえてはっとすると、いつの間にか電話を終えた拓真が居た。
こいつ、見たな・・・。
「全財産、千と六円だよ。悪い?」
財布の中に寂しく一枚だけ入っている千円札と、五円玉と一円玉の二枚だけ。
「あおちゃん、うちで働けばいいのに」
ぼそっとつぶやく。
その言葉を聞いて、イヤホンを耳に入れようとする拓真に言う。
「あんたん家で働く?あたしが?」
「あおちゃん、ちょーっと可愛い服着て、掃除とかするだけで一日一万円だよ」
ちょっと、可愛い服・・・?
来週の修学旅行ということで、最近出費がかさむ頃だった。
バイトもしてないし、ちょこちょこお金は出て行く。
「どうする?やる?」
にやり、と不覚に笑う拓真。
一日一万円なら、好きな洋服が買える。
一万円あれば、買いたかった漫画が買える。
そう思い、あたしは頷いた。

それに乗っかってしまったのが、最悪の始まりだった。