「杏樹」

「ん……?」

名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げる。


「……会長……ダメ」

小さい声で、ストップをかけた。


なぜなら。

キスされそうだったから。



まだ別れてない。

さっきは……寂しさで甘えてキスしてしまったけど、陸と別れてないのにしちゃダメだ。


いや……違う。

寂しいからキスをせがんだわけじゃない。



陸が会いに来たから……動揺していたんだ。


あんなに連絡しなかったのに、姿は見えなくても……泣きそうな顔で心配してくれてると感じたから。



陸が見えないということは……あたしは4人目の被害者になったんだよね。

他のみんなは、1番大切だった人のことが見えなくなって……忘れちゃった。


じゃあ……あたしにとって1番大切なのは、陸だったってこと?


会長じゃなくて?