「蒼以?どうした?」
視界が少し歪む。だめだ。やっぱり・・・
「ううん、何でもない!あっち行こうか」
歩に背を向けて男子チームの元へ走る。
それは歩にだけは知られてはいけないことだった。

「何やってんの」
余った椅子に座ろうとすると、和也に椅子を取られる。
「だーめ。お前は来ちゃだめ。歩ちゃんも」
「えー、なんで」
「危ないコトだから。いい子はあっちで寝んねしてなさい」
危ないコト・・・ねぇ。
鼻を伸ばしてチラ見をしようとするけど塞がれてしまう。

大人しく元の場所に戻ると、歩に話しかける。
「何だと思う?」
「煙草・・・とか」
振り返ってにおいを嗅ぐ。煙草の臭いはしない。
「頼、あいつは悪いからなぁ~・・・」
賭け事をしては逮捕されてしまうんではないか?というあたしの心配を『大丈夫』と言い免れてきた。
そっと耳を済ませていると「蒼以がなんちゃら」とか「歩ちゃんがなんちゃら」とかいう会話をしている。

「うちらの話してる、やっぱ行こう!」
そう言って勢い良く突撃すると、今度は拓真が行く手を阻んだ。
「ねー、拓真、何やってんのみんな」
「あおちゃんには刺激が強すぎる、もうちょっと大人になってからのほうがいいよ」
「じゃあ歩は?」
拓真が下から歩をガン見し、口を開く。
「歩ちゃんは痛いのとか平気?」
「え、あぁ結構・・・」
「本当?痛くて泣いちゃうかもしれないよ?」
そういえばさっきからうめき声が聞こえる。
何されてんだよ・・・。見ようとすると、拓真に阻まれる。
「だ、大丈夫です・・・」
「ふふ、チャレンジャーだね。いいよ、じゃあ頼のほう行って」
「え、歩!」
「あおちゃんは後ろ向いてて」

がっちり振り向けないように固定され、耳を澄ませる。
「歩に何すんの」
「何って・・・何?」
「屋上をこんな自分の部屋のように使っていいの?」
「別に・・・いいんじゃない」

目を閉じると声が聞こえる。
「怖い怖い怖い」という歩の声。
「大丈夫だよ、痛くないから」と頼の声。
「初めてだったら痛いかもね」と旬斗の声。
続いて「でも気持ちいいよ」との和也の声。

どっからどう聞いても危ないじゃん!