入ってきた患者の服が濡れているのを見て、澤木は初めて外で雨が降っていることに気づいた。

それくらい、忙しかった。

朝からずっと診察を続けているが、待合室の患者は一向に減らない。というか、前より増えている。
子どもがくしゃみをした、
アイスの食べすぎでお腹こわした、
逆さまつげが目に入った、
寝違えて首が回らない、
スイカの種が鼻の奥に入った、
結婚式で飲みすぎて二日酔い、
これって水虫?!
などなど、病状も普段にも増してバラエティに富んでいる。
しかも、その全ての患者が、待合室の中で一番の重病患者は自分だと思っているのだ。
苦痛に満ちたため息をつきながら、不安に青ざめた面持ちで自分の呼ばれるのを今か今かと待っている様は、まるで野戦病院のような様相を呈している。

「スイカはおいしかったですか?」

澤木は今、患者の鼻の中をのぞいているところだ。
こんなときでも、澤木は一人ひとりの患者を丁寧に診察していく。

「うん、おいしかった。・・・ふぇっくしょん!」
くしゃみをした途端に、少年の鼻から大きなスイカの種が飛び出した。