「にも関わらず、あなたはのらりくらりと答えを出さなかった。あなたの態度は雄弁に私を好きだと語っていたけれど、あなたの口は二枚貝のようだったわね」

 私の舌鋒は止まらない。
 決壊した防波堤はただの泥の塊、濁流は容易くそれを乗り越えて災厄を撒き散らす。

「挙句、今度ちゃんとした言葉で言う? なら今までの言葉はなんだったの? 私は別に饒舌に愛を語れって言ってるわけじゃないの、勘違いしすぎなの、私をなんだと思ってるの?」

 歯止めが利かない。
 三年分――否、もうすぐ四年になる――の鬱憤が溢れてくる。

「しかもこれだけお膳立てしておいて、今度ってなに?」

 前橋はまた、黙り込んでしまった。

「それともなに? 私からあなたに好きだって告白するとでも思っていたの?」

 面と面向かって言うには、辛辣で非道なのかもしれないが、私の心を占めているのは、彼に対する怒りだけだった。

「私に好きになってほしい? ええ、好きだったわ。あなたが待ってって言ってくれて嬉しかった。ああ、私は前橋に大切にされてるんだって舞い上がったわ――勘違いだった」

 はっきり言おう。
 嫌ってもらえるように。

「遅すぎるの」

 沈黙が落ちて、三秒数えたところで私は席を立った。
「それじゃあ、私、帰るから」
「……え」

 その意外そうな表情に、はらわたが煮えくり返る。
 
「もう話すことなくなったのよ、今までありがとうね」
「ま、待って……っ」

 前橋はまた「待って」と甘えた。
 私はもう振り向かない、立ち止まらない、待たない。

 今までさんざ待った。
 だだ漏れだった前橋のために私からチャンスを作った。

 今回だけじゃない、今までもずっとチャンスを作ってきた。これほどはっきりとしたものではなかったのかもしれないが、それを見逃していたのは、前橋が今の状況に満足しきっていたせいだ。

 これからもきっと、前進しない。
 私は、もう前橋に縛られたくない。友人と名乗ることも億劫になるほどに疲れた。

 今までの時間を返してとは言わないが、これ以上前橋に割く時間はない。
 決然と別れを告げて、私は店を出た。

 纏わりつく湿気に、暗澹とため息をついた。