前橋は視線を落としたままこちらを見ようとしない。
 一言もしゃべらない。プログラムが強制終了されたように、うんともすんとも言わない。

 一体どこまで私を苛立たせれば気が済むのだろうか。
 いつまで待たせれば気が済むのだろうか。

 この瞬間にフリーズするということは、前橋はまだまだ私に思いを告げるつもりはなかったということではないのか。
 今夜、私が切り出さなければ、この曖昧な関係は続けられていただろう。

 それだけは確実に言える。
 前橋の方から一歩を踏み出すということはしなかったということだ。

 それにまた苛立ちが募る。
 重い沈黙が二人の間に落ちる。

 隣の席では友人同士の歯に衣着せぬやり取りが軽快に進んでいる。
 同じ話題を漫然と繰り替えす私たちの会話より、何倍も楽しい時間だろう。

 私にもそんな楽しい時が訪れてくれればいいのにと、やっかまずにはいられない。

 何を考えているのかは分からないが、前橋の口は一向に開かない。
 私はこっそり吐息した。

 その沈黙は長く、私を辟易させて疲弊させて、あまりの気まずさに口を開かずにはいられない。

「友達?」

 私から聞いてはいけないと思いながらも、この黙り続ける時間は人生の浪費だと考え直し、問う。

「それは、違う」

 問えば前橋ははっきりとした答えを返した。
 はっとして、慌てたように思いきり否定する。

「じゃあ、なに?」

 だから私は間髪入れずにさらに問う。しかし今度は黙り込んだ。
 何かを言いかけて諦めたような、言葉をもう一度飲み込んだ前橋は、難しそうに顔をしかめている。

 私は、そんなに難しいことを聞いているのだろうか。