「そこは婦人服ですよ」


「いいから、いいから」


香取さんに腕を引かれ、私達はその店に入っていった。


考えて見れば、通勤に着る以外の服は、しばらく買ってなかった。いつ以来かも覚えていないぐらい。


今日だって、着古したトレーナーにジーンズにスニーカーという出で立ちだ。


「これなんか、佳奈子さんに似合いそうだなあ」


「え?」


「なに?」


「いま、“佳奈子”って……」


「ああ。これからはプライベートではそう呼ばせてもらうよ。
“渡辺さん”では、郁美ちゃん達と区別できないだろ?」


「それもそうですね」


「ところで、どう? このワンピース。着てみてよ」


「いらっしゃいませ〜」


女性の店員さんが、愛想笑いを浮かべながら私達に近寄って来た。