二人の呼吸が合っているのがよく分かる、オリエッタの首ぎりぎりに綺麗な左右対象で二人は止まった。


「……落としましたよ。」

ビキはオリエッタの掌に扇子を渡したが、彼女は上手く声も出ないようで、魚のように何度も口を開けた。
扇子は上手く受け取れずに床に落ちる。


「お前のような下衆の触れたものなど、床に落ちた方がマシです!」

癇癪を起こしてビキを打った。
ビキはかわせたが、我慢した。


「……闘技場に入るには王族の許可が必要だというのに仕様の無いお方だ。父の留守に奔放になるのは、愛人の前だけにしていただきたいものです。」

甲冑の中の王子は声質だけでも高貴さが滲み出ていた。


「貴方もティラの首の風情で……飽きたわ!」

オリエッタは、怒りに任せヒールを鳴らしながら帰ってゆく。


「醜い……。殺したいのはそちらだろうに。」

王子は軽く笑い飛ばした。オリエッタの王子への嫌がらせはいつものことで、王の留守を見計らい、時折やってくるものだ。


「王子、弓の時間です。」

オリエッタが禁忌の言葉を使ったようで、家来に促されたが王子は別段、気にする訳でも無かった。



「ティラ、ティラ、跳ねる扉の外。ティラ、ティラ呼ぶよ樵さん……」

ビキの脳裏に刻まれていた音が自動再生されてゆく。


「ふ……、はは、はははははははは!……君を招待しよう、明日の晩は我が王族の舞踏会だ。」

何故か王子は笑いが止まらないようで、絶え間無く笑い続けながら王子は闘技場を後にする。
ビキはその後ろ姿を見送った。