「体が怠いんじゃないか?」

『ビキ』は頭を蹴られた。

「くるしい……」

頭の痛みより、全身に廻る渇きが勝っている。


「血が足りてないんだよ。飲みなさい。」

水滴が幾つも床に滴る。
ビキの飢えはそれを嘗めるとたちどころに収まった。

「卑しい子だね……今日からお前は三番、三番だよ。覚えておきなさい。」

気付けばビキは三番と名付けられていた。

ビキは毎日規則的な生活を送った。

病院へ行く、
口を濯ぐ、
歌を歌う。


怪我をした箇所を病院で見せる。
染み付いた血をくまなく口まで濯ぐ。
歌を歌う間に人は殺せる。



すっかり隻眼の殺人鬼として、ビキは飼い馴らされていた。


ビキが放られた牢は理性を失うガス室だった。
その中で起きた共食いの唯一の生存者が彼だった。

この実験は幾つもの捕虜の牢で行われていて、ビキは三番目の牢に居たことで、三番と名乗らされている。

独房のような世界と外の殺戮は内側から腐らせる。
ただ、動いている方が楽だった、拘束帯を着けられ、食事の時間以外は自由の無いなら、繰り返す殺人の方が新鮮に感じてしまうほどだった。
軍事国家、渦の國にも命からがら帰ってきた。

それは、体に覚え込まれている味の為の帰省本能だ。

渇いた喉を潤すにはどうしても王族の血が必要だからだ。