「下がれ。」

抵抗する余力は、王に残っていないと理解し、影は王と二人きりになる。


「王よ……喉も潰れたのだろう?」

王の両目は塞がれて、近付く音には鋭敏だった。
しかし、怯える様子は無く、猿轡が無ければ叱責が飛ぶだろうとさえ錯覚させる。

影から表情は読み取れず、王をただただ、見下ろすばかりだった。

否、見下ろすことしか知らなかったのだ。


「私は今、其方の心臓にナイフを突き刺すことも出来る。あの時、そう言った。」

王の横たえる耳元で、ナイフを床石で擦る。
影は猿轡を外してやる。





『……知らんな。』

やっとで聞き取ることが出来る掠れた声に反し王の威厳は保たれているように思えた。

影は血が上るのを覚えた。

王は気付いている、
その眼に映るは確信だ。


〔犯れるものなら犯ってみろ〕

影にはそう、声が聞こえてた。
それは朱で染まるような、低い音質での再生だ。


「この私を殺さなかった罰だ……。そしてこれは、この私をまた跪づかせる罰だ。」

影は王へ接吻する。
誰より王に近い存在であった彼が、初めて知る王の唇だった。