広いサバンナで生活しているはずの生き物が、狭くて気候も全く違う場所でたくさんの人間に見られながら生きているのだから、想像を越えるストレスがかかっているのかもしれない。


「だから些細なことで暴れることがあるの?」


「たぶんね。象はとてもナイーブな生き物だから。でも、認めたくなかった。あの事故が俺のせいだったなんて、絶対に認めたくなかった」


透真がやけに晴れやかな顔をした。


「でも、今日、はっきりわかったよ。やっぱりあれは俺のせいだったんだ」


長い間、透真を苦しめ続けてきた葛藤を思い、涙が込み上げてきた。


「泣くなよ」


透真が困ったようにハンカチを差し出す。


「その顔で泣かれるとグッとくる。俺、学習能力ないから」


「え?」


―――それって、どういう意味?


聞きたいのに、しゃっくりが邪魔をする。


呼吸を整えているうちに、家が見えてきた。


今日ほど自宅と動物園の近さが恨めしかった日はない。


けれど、通りすぎるわけにもいかず、私は家の前で足を止めた。


「ここ?」


仕方なくうなずいた。


「じゃあな」


そのたったひと言を残し、透真が歩き去った。


一度も振り返らないまま、駅へと続く道を歩いて行く。


その姿が見えなくなるまで、私は彼の背中を見つめていた。