時間の経過を忘れた頃に、ケータイが鳴った。

軽い振動が、短く三回。

メールだ。


誰からだろう、と思いながら、開けなかった。


今日夜空いてる?

久々に会いたいな?

もし、そんないつものメールだったら。

たぶん、病気のことを話す、きっと。

ごめんねと謝る、きっと。


でも、心の中で呪う。
きっと。


優しさも、励ましも、悲しみも、苦しみも。

友情も、愛情も、呪う。


一番、辛いのはあたしじゃない。

心の奧がそう叫ぶのが聞こえる。



今この瞬間に、あたしを消してほしい。

あたしがいた記憶ごと、全部消してほしい。


何かが壊れてしまう前に。

溢れだす前に。



「終点ですよ」


隣に座っていたおばさんが、あたしの肩を叩いて降りていった。


気付いたら、寝ていた。

これ以上、考えることを拒否した。


追いたてられるように、電車を降りた。


握りしめていた拳が痺れていることに気付いて、乾いた笑いが浮かんだ。



「もしもし、お母さん?あたし。

いま?成田にいる。

え?ひとりだよ。

…あのね、結果出たよ。

……うん。よくなかった、かな……」



電話をした。

心配そうにあたしを迎えに来た母の顔を見たら、

涙が出てきた。



「あたし…

やだ…死んじゃうの?

おかぁさ……たすけて」


小さな子供みたいに泣きじゃくるあたしを、

ぎゅっと抱き締めて、母も泣いた。

あやすように、くしゃっと頭を撫でながら。


「お母さん、明日一緒に病院行くから。

ちゃんと治す方法先生に聞きに行くから。

頑張るから、一緒に。

だいじょうぶだから。

頑張ろう、一緒に、ね?」



何年ぶりか、手をつないで家に帰った。

母の手は、小さくなっていた。

でも、変わらず暖かかった。