たとえそれが事実であっても、たとえそれが正しいことであっても、口に出せば辛い目に遭うことがある。


その教訓が身にしみている私は、談話室でのことを言おうかどうしようか迷った。


理由は、明奈の本命が鳴沢先生だと知っているから。


明奈は今の高校に入って、1番最初に声をかけてきてくれた友達。


知り合いが一人もいない学校で心細かった私と仲良くしてくれた。


その明奈が2学期になって、
『あたし、ホントは鳴沢先生が好きなんだぁ』
と言い出した。


今まで会わせてもらったボーイフレンドたちとは全く違うタイプ。


意外だった。


実際、鳴沢先生のファンだという生徒はたくさん知っている。


けれど、自由奔放な明奈の意中の人が先生だというのはピンと来ない。


打ち明けられてキョトンとしてしまった私に、明奈が真顔で
『あたしのこと、あんなに真剣に怒ってくれた人、初めてなんだぁ。キュンときた』
と言った。


本気だと思った。


その明奈に
『私、鳴沢先生にキスされそうになったの』
とは言い出せなかった。


私は天真爛漫な明奈が大好きだから。


明奈は絶対に失いたくない友達だから……。


私は無理に笑った。


「違うよ。本当に体調が悪かったんだって」


私の嘘を聞いて、明奈は安心したように笑った。