翔は私に惚れている。
だから私の隣で曲を作り続ける。

私にできることは、詩を綴り続けることだ。

人には役割ってものがあるんだ。

システムの中で上手くふるまえば、その公式は崩れない。

ルールは守るもの、成人してから気づいたんだ。




そう思いふけっているうちに講義が終わった。

周りの学生が教室を出てから席を立つと、教室の外で香苗が小さく手を振って合図した。
教室の前を通りかかったら、私の姿を見つけたらしい。

「ネネ、お昼一緒に食べない?」
「ん、いいよ。食堂でいい?」
「いいよぉ。今日は、清瀬君いないんだね」
「午後から来るって言ってたけど」
「そっか」

香苗は大人しい女の子。

女の子っていうより、レディーって言葉が似合うかもしれない。


彼女の白いスカートは、彼女のために揺れる。

彼女の髪を揺らす風は、彼女のために吹く。


大学に入学した当初、よく一緒にいた。
その頃の私は、香苗になりたかった。

混雑した食堂の隅が空いていた。
日が当たらないので、寒くて避ける生徒が多いテーブル。

「今日の限定ランチは海老フライ定食だって」

海老フライ、翔が好きなんだよな。


海老フライは二つないといけないらしい。

ひとつはソース用に。
もうひとつはマヨネーズ用に。