(もしも奈美ちゃんが本気でお兄ちゃんのこと好きなら、応援、してあげなくちゃね……)

兄がキッチンへ進むのを眺めながら、美幸は椅子の上でだらけた。ずるずると腰の位置
を下げ、背中を丸めながら足をテーブルの下いっぱいに伸ばす。
そのとき、なにかが爪先に触れた。からら、と、細い筒状のものが転がる音がする。

「?」

小首を傾げ、身じろぎし直す。テーブルの下を覗いてみると、そこには、ボールペンが落ちていた。ノック式である。芯をしまう時には、サイドについたボタンをプッシュするタイプの――奈美が持っていたものに間違いない。

ボールペンを拾い上げた美幸は、もう一度首を傾げた。

「忘れて、帰ったのかな?」

あの、しっかり者の奈美が? 少し考えづらい。が、ボールペンが落ちていたのは事実だ。

わざとか、偶然か、ただ単に聞こえなかったのか。

美幸の呟きに、兄がなにかを言うことは、なかった。